セレドットから道なりにローヌ街道を抜けると、メルサンディ穀倉地帯にたどり着く。
風にあおられた麦の穂の間に見え隠れするのは、ミニデーモンと呼ばれる小悪魔の姿である。その隣ではダークペルシャが黒い毛並を風になびかせている。
かつて訪れたメルサンディでは麦の穂と同じ黄金色の鱗を持つドラゴンキッズやゴールドオークたちが統一感のある景色を演出していたのだが、ここではどうも、そういう配慮は無いらしい。
ローヌ街道にしてもそうだ。紫色の霧に覆われた大地では、舞い落ちる枯葉の色に街道全体が染まっているかのように思えたのだが、今、歩いてきた道はそこまで印象的なものではなかった。
単に私がレンダーシアの風景に慣れてきただけなのか、それとも……
……私がかつて見た風景は、誰かがそのように意図してデザインした風景だったから、なのか。
その答えを求めて廻り廻って来たレンダーシアの旅も、このメルサンディでひとまず一周ということになる。
とりあえず宿を求めようと村に足を向けた私の目の前を、小悪魔ミニデーモンの一団が走り去っていった。
背中の羽もぱたぱたと、飛ぶように駆けまわるミニデーモン。彼らがその手にわしづかみにしているのは、一束の小麦の穂である。
農夫たちが怒鳴り声をあげているところを見ると、野良仕事の目を盗んで失敬したものに違いない。
けたけたと笑い声を上げながら逃げる小悪魔たちを追いかけるのは、農夫が予め雇っておいたのだろう、若い冒険者たちである。
この光景から察するに、小悪魔たちの悪戯は、一度や二度ではないようだ。
コンパスの差であっという間に追いつく冒険者たち。小悪魔の抵抗は私が予想していたよりずっと激しかったが、後れを取る彼らではない。あっさりと小麦は奪い返されたようだ。
ミニデーモンは悪態をつきながら逃げ去っていく。腰に手を当て、あきれ顔の冒険者たち。ほっと胸をなでおろす農夫。
なんとも牧歌的な光景だった。