それは、私がセレドの町を二度目に訪れた時のことだった。
近く解放されるという更なる新技術について、少しでも情報が出回っていないかとダーマ神殿方に探りを入れに来たのだが、残念ながらまつ毛のマスターは口が堅い方だったらしい。
焦らずともじきにわかりますよ、と、やらたと瞳をきらめかせながら諭す彼に従い、一旦出直すことにしたその時である。
どこからともなく声が聞こえてきた。あどけない子供たちの声だ。
だが振り返ると誰もいない。やけに鮮明に耳にこびりつく、楽しげな声。
猫魔道のニャルベルトが青い顔で訴える。
「これはやっぱり、アレにゃ……」
猫の背筋も凍るお話。この町は今、一つの噂で持ちきりになっていた。
事故で死んだ子供たちの幽霊。目撃者は何人もいるという。それを知ってか知らずか、怪しい霊媒師までもが街に出入りし始めたとのことだ。
山岳の町、セレドを吹く風は冷たい。谷底から溢れる光の河の輝きは、石造りの家々にくっきりと陰影を刻み、事故に沈むこの町をかえって暗く染め上げるようだった。
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「うーん、幽霊とか魂とか、いまいちピンとこないんだよね」
と、きっぱり言ったのは僧侶のリルリラだった。相変らず、現実主義者の彼女だ。聖職者としてその発言は正しいのか間違っているのか、詳しくは知らないが、その言葉自体には同感だ。
少なくとも今回は、何かが違うように思う。
メルサンディでの一件を思い出す。一つに重なろうとしていた童話と現実、そして霧と晴天の大地。
どうやらここでも同じことが起きようとしているようだ。
……だが……。
まだ事故の傷も癒えぬ、セレドの住人たちの物憂げな顔を見るたび、私は気が重くなっていくのを感じた。
二つの大地が重なることは、死んだ子供たちが帰ってくることを意味するのだろうか……?
リルリラは無言で首を振った。
私も、そうとは思えない。
ひょっとしたら重なる二つの大地は、彼ら双方にとって残酷な事実を突きつけることになるのかもしれない。
とはいえ、私はこの件については全くの無力。何も干渉できそうにない。
しばらくこの街に留まり、なりゆきを見守ることにしよう。