「一件落着、かなぁ」
神殿の鐘の音を聞きながら、リルリラは寂しげに呟いた。
町には平穏が戻り、幽霊騒ぎも収まった。もう二度と、住民たちの前に幻が姿を現すことは無いだろう。
そう、もう二度と。
「あの親子、仲直りできてよかったニャ」
と、気楽そうにニャルベルトが言う。
それはどっちの……とは、あえて聞かなかった。
「どうしてもの時は、誰だって家族を大事にするよね」
ため息交じりにリラがそう言った。
「問題は、いつがその時か、わかんないこと。大抵は気づかないまま通り過ぎちゃうの」
頬杖をついた彼女の瞳に、いつになく物憂げな光が宿っていた。彼女自身、旅芸人に憧れつつも僧侶の家系に生まれ、僧侶として生きる決意をした過去を持っている。親子の関係については、思うところもあるのかもしれなかった。
夕焼けと光の河に照らされて、セレドの夕暮れは不思議な色合いに染まっていった。
花が一輪、揺れる。やがて、静かな……とても静かな夜が訪れることだろう。
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神殿で見た光景には、胸が締め付けられる思いだったが、一方で根本的な謎が一つも解決していないことにも気づいていた。
メルサンディ、セレド。それぞれの場所で二つの大地が重なろうとしていたが、その形も意味するものも別である。結局のところ、謎は深まるばかりだ。
集会所に突入してきた冒険者たちは、あの少女、ルコリアと共にずっと霊媒師を追っていたのだという。
彼らが教えてくれたリンジャの塔での出来事は、その謎の手がかりになるかもしれないものだった。
黒幕らしき仮面の人物。その身を覆うローブの内側にちらりと、青紫色の脚が見えたと聞いた時、私は一人の女性を連想せざるを得なかった。
「たとえ偽りとして生まれようと、力ある者こそ真実なのだ。私こそ、本物の……!」
耳にこびりついた悲痛な叫び。もし、死さえも偽りだとしたら、それは悲劇である。
「行ってみるか、リンジャの塔に」
次の目的地を定めれば、冒険者の切り替えは素早いものだ。
リルリラも、もういつもの表情に戻って「いってみよう!」と、お気楽に答えた。
ともあれ、今日は疲れた。とりあえず、宿でゆっくりと休むとしよう。