某月某日。
私がリンジャの塔から戻ると、セレドの町には冒険者たちが群れを成して押し寄せていた。言うまでもない。技術解放の儀式のためである。
セレドはダーマ神殿への巡礼者を客とした宿場町として発展した街だという。なるほど、納得の光景だ。
彼らが生み出す喧騒は、幽霊騒動の記憶も新しいこの街には少々迷惑な、しかし丁度よい変化かもしれなかった。何しろ、悲しんでいる場合ではない。突然、仕事が数倍にも増えたのだ。小走りにせわしなく走り回る町民たちの姿が汗と活力に溢れているのをみて、私はほっと胸をなでおろすのだった。
もちろん、変化は彼らにだけ訪れるものではない。
果たして新たな技術が我々の旅にどんな変化をもたらすか。期待と恐怖を共に抱き、旅人たちは神殿へと駆けのぼる。翌日には私もその光景の一部となっていた。
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神殿にて待ち受けていた試練はまたしても厳しいものだった。
まつ毛の3兄弟に加え、予想外のまつ毛がもう一人……と、呼んでいいかどうかは微妙だが……参戦し、儀式の舞台は、さながらまつ毛入り乱れる狂乱の宴となった。
もっとも、先の儀式で心の準備ができていたこともあり、前回に比べればダメージは少ない。
儀式の後の余興として魔物とも戦ったが、こちらも前回より楽な戦いだった。
それにしても、まだここにいたのかお前は……
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さて、解放された技術についてだが……。
……各種武器については、正直なところ肩透かしを食らった感が否めない。
確かに、下手な攻撃技よりは役に立つかもしれないのだが……。大事なのはロマンではなかろうか?
「神は細部に宿る、と言いますよ」
まつ毛のマスターは相変らずのきらめく瞳で微笑むのだった。
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武器の方はともかくとして、フォースの奥義は試練を受けるに値する代物だった。
フォースブレイク。炎や光といった特殊攻撃に対する耐性を破壊する、魔法戦士垂涎の奥義である。
決まりさえすれば、決定的な効果を発揮するこの技だが、解放から日が浅く、まだその力は完全には解明されていない。世界中の魔法戦士が解明に向けて励んでいる真っ最中である。
現在のところ、魔物によって効きやすさが変わる。魔力によって変わる。与えたダメージによって変わるなど、諸説紛々。特に魔力に関しては、装備の購入方針に影響するため、注目の要素である。
私としては、魔法戦士があまり杖に偏るのは好きではないのだが……。
ともあれ、私も魔法戦士団からの指令により、一時、レンダーシアから帰国。この調査に加わることとなった。
私の調査ターゲットは、プクランド大陸、風車の塔に出没する魔軍師の亡霊。
彼奴に装備を切り替えながら何度もフォースブレイクを使い、その効き具合を確かめるというわけだ。
まずは剣を装備したまま、できるだけ魔力を高める。と、いっても私が所持している装備の範囲なので大したことはない。
ヴェリナードで測定してもらったところ、魔力強度328と出た。
この状態でブレイクを撃つこと合計45回。成功は15回。約33%である。
次に杖を装備し、魔力445。この状態で21回撃って9回成功。約42%。
最後に、魔力を全く意識しない普段の装備に切り替える。魔力227。21回中6回。約28%となった。
確かに魔力の影響があるように思えるが、まだ試行回数も少なく、なんともいえない。
また、傾向として最初の数回は通りがよく、その後は通りが悪くなるように思えた。
戦闘開始から最初の5回以内に限って統計を取ると、いずれの場合も成功率60%を超える。魔力の差はこの場合、感じられなかった。
あるいは、ブレイクされるたびに、相手はブレイクに慣れて、耐性を得るのかもしれない。だとすると、単純に述べ実行回数と成功回数を比較するだけの統計には、あまり意味がないことになる。
どうやら個人でできる範囲の調査では、解明にまだまだ時間がかかりそうだ。
他の魔法戦士達からの調査報告と合わせて、解明が進むことに期待しよう。
会心のフォースブレイクが決まった際は必ず成功するようなので、それを目当てに会心特化というのも、アリといえばアリだろうか……
それにしても、と、報告書をまとめながら私は天井を見上げた。
超はやぶさ斬りとシャイニングボウの会得により、魔法戦士はサポートを行いつつ、合間、合間にアタッカーに近い攻撃を入れていく方向に進化していくものと私は考えていた。それは私が望む、補助とサブアタッカーを兼任できる魔法戦士への道程に思えた。
が、フォースブレイクの出現は、さらに別の方向へと魔法戦士を導いていくかのようである。
果たしてどんな未来が待っているのか。
一魔法戦士として、興味は尽きない。