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夜の港町に波の音が響いた。海は穏やかだったが、陸上の空気はピンと張りつめていた。
「来たぞ。二時の方向!」
水夫を装った物見の兵が声を上げる。月明かりの中、海鳥にしては大きすぎるシルエットが空を舞っていた。颯爽と羽ばたく黒翼鳥の姿は、まっとうな手段でて名付けられるとしたら、さぞ人気を博したことだろう。
私は天に向けて弓を番えた。灯台からのサーチライトがターゲットを照らし出す。
「恨むなら、お前たちを作ってしまったご主人様を恨むんだな」
弦が弾け、光の矢が宵闇を切り裂いた。
それは開戦の合図でもあった。
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某月某日。
フォースブレイクの調査のため、レンダーシアから一時帰国していた私に魔法戦士団より、突如の出撃命令が下された。
魔物商人の動きに網を張っていた諜報部隊が、彼奴等のレンドア強襲計画をキャッチしたためだ。
レンドアのシガール市長とも連絡を取り合いながら魔法戦士団員は一般の旅人、冒険者を装いレンドアに入島。私もその一人に加わることとなった。
「魔物を商売道具に使うなんて許せんのニャー!」
猫魔道のニャルベルトも特に志願して防衛隊に加わった。もっとも、そのままではあまりに目立つので、戦闘が本格化するまでは猫のふりをしていてもらうことになった。
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演技力は高いとは言えないが、まあ及第点だろう。
「それにしても、なんで我が愛しのレンドアを、そんな物騒な連中が狙うんだ?」
海を睨むのはビッグボス・シガール。レンドアの市長である彼はかなりの変わり者との噂だったが、対面するのは今回が初めてだった。
少々気取ったところのある人物だが、レンダーシアから切り離されたこの小島を交通の要衝として発展させてきた手腕は確かなものである。
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「奴らの目的は利益だけですよ、市長。商品の価値を誇示するため、大都市を襲って力を誇示しようというのでしょう」
指揮を執るアーベルク団長が静かに紅茶を飲み込んだ。
「単純な連中です」
吐き捨てるように言うのには理由がある。
衛士ノーランの一件以来、魔法戦士団にとって魔物商人は仇敵である。この作戦についても、多くの魔法戦士が自ら志願し、選別に一苦労したほどである。
私自身、奴らにかける情けなど欠片も持ち合わせてはいない。
「徹底的にやりますよ」
「そいつは頼もしいが、俺にもちょいとツテがあってな。もう一つ援軍を頼んである」
「ほう」
だが残念ながらその援軍とやらは少々足が遅かったらしい。
彼らの到着を待たずして黒翼鳥の襲来となった。
目立たぬよう旅人や漁師に変装していた魔法戦士が一斉に正体を現し、弓矢を手にする。
さて、何匹が町まで辿り着くか、見ものだな。
「もちろん、ゼロだ」
アーベルク団長が気合の声も鋭く矢を放つ。
また一匹、魔物が海に堕ちていった。