ワルド水源から三門の関所を抜け北上すると、過去の遺跡が立ち並ぶレビュール街道にたどり着く。
南にリンジャハル、北東部に古代アラハギーロのピラミッドと、レンダーシアには遺跡が多いことも特徴なのだが、半ば崩壊したレビュールの遺跡街道は今のところ研究者からも見放されているように見え、どんな時代の遺物なのか、我々素人には見当もつかない。
その遺跡を探索してみるのもなかなか面白そうなのだが、今回の私の目的は別だった。
もしこの地を街道沿いに歩いたことしかないのなら……あるいは、馬車で駆けぬけたことしかないのなら……一度は街道を外れて歩いてみることをお勧めする。
なだらかな丘陵の中ほどに、まるで落とし穴のようにぽっかりと小さな穴が空いているのが見つかるはずだ。
覗き込むと、丘の内側を天然の洞窟が貫いているのがわかる。その洞穴と、岩をくりぬいて作った古代遺跡の通路がたまに交差する。ちょっとした立体迷路だ。
この穴は、残念ながら不思議の国には通じていないが、なかなか興味深い場所へと我々を案内してくれるのである。
洞窟を抜け、目当ての場所にたどり着く。
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「いつ見ても壮観だな」
遠くに巨大なキングリザード、器用に斧を持ち、のっしのっしと闊歩するのはアックスドラゴン。そして数匹で群れを作り、ちまちまと歩を進めているのはドラゴンキッズ。
さしずめドラゴンの王国といった風景である。希少種であるはずのドラゴンが群生するこの地を発見した時、私は言葉を失ったものだ。
すらりと高くそびえた丘に囲まれたこの場所は、先の洞窟を除けば外界と行き来する道もなく、さながら陸の孤島である。その特殊な環境が、この光景を生み出したのだろうか。
私がもし魔物学者なら、この景色が宝の山に見えたかもしれない。
ドラゴンの生態は未だ解明されていない部分が多い。ドラゴンキッズが親竜と一緒にいる姿すら発見されていないのである。研究対象としては、まず第一級の素材と言っていいだろう。
「あんなトカゲがそんなに珍しいニャ?」
猫魔道のニャルベルトが呆れた顔で首をかしげる。まあ、我々が竜に抱く憧れは、猫には理解しがたいか……
「さ、チャッチャと探そうか」
背中を押したのはエルフのリルリラ。
「吾輩という優秀なパートナーがいながら、贅沢な奴だニャ」
猫の骨格で器用に肩をすくめたのはニャルベルトだった。
もちろん私は学者ではないので、ここに生態研究にやってきたわけではない。
今日の目当ては、ドラゴンキッズを一匹、手懐けることである。
手元には購入したばかりの、ドラゴンキッズの書。
いくら私が魔物使いとしては三流だといっても、これだけ数がいれば一匹や二匹、懐いてくれるはずだ。
「だといいけどニャ」
からかい半分に笑うニャルベルトもその実、期待の表情だった。
私が他の魔物を育てると聞いて、やれ裏切り者だ何だと拗ねていたのが嘘のようだ。これは、リルリラの手柄である。
待ち合わせ場所にやってきたリルリラが、不機嫌なニャルベルトに一言、
「これで猫ちゃんにも、後輩ができるんだね」
と言った瞬間、丸い猫目が輝き始めた。
「仕方ないニャ。後輩の教育は先輩の吾輩がみっちりやってやるニャ!」
……この結果を見越しての発言だとすれば、リルリラは魔物使いの素質あり、ということになりそうだ。
口の上手さが聖職者の最重要技能、ということもあるだろうが。
「で、最初はどうするの?」
「ふむ……本によるとだな……」
ペラペラとドラゴンキッズの書をめくる。
こうして私のドラゴンキッズ捕獲作戦が始まった。