夕暮れ時の丘の上、王女の後を、ドラゴンキッズがとことことついていく。
なんとものどかな、そして羨ましい光景だった。
「あらあら、困ったわ。この子たち、離れてくれないわ」
「完全に姫様に懐いちゃったみたいね」
「まあ……」
困りつつも嬉しそうな顔である。そしてその倍も嬉しそうなドラゴンキッズの顔が私の胸に突き刺さる。
……これが、一介の魔法戦士と勇者の差だというのか……? 私の苦労は一体何だったのか。
「ねえ勇者様、その子たち、育ててみたら?」
不躾な口を利いたのはリルリラだ。……というかお前、さっきから姫に向かって馴れ馴れしすぎるぞ。
「そうしたいけど、お城には魔物使いなんていないし、一緒に来た仲間にも……」
勇者は盟友たちを振り返る。彼らもそろって首を振る。魔物使いはいないようだ。
「じゃあさ、姫様に提案!」
ハイ、と手を上げるエルフ。嫌な予感しかしないのだが、口を封じるには遅すぎた。
「姫様が忙しい間、私たちがこの子たちを預かるっていうのはどう?」
ねっ、とこちらを向いて片目をつぶる。嫌な予感は的中だ。ウェディの青い肌が、さらに青ざめていくのが分かる。
「リラ、畏れ多いことをいうな。仮にも勇者姫のお気に入りを我々のような者が預かるなど……」
「まあ、ミラージュさんには魔物使いの心得もあるのね! お願いできるかしら」
…………。
なんとなくわかっていた。
身分など気にしない性格の姫が、この提案に乗ってくることはわかっていた。
「やったねミラージュ。これでドラゴンキッズが飼えるよ!」
「目的達成だニャ」
お前たち……。
勇者姫の御前でなければ、私は頭を抱えていたところだ。
グランゼドーラ王女の竜を、ヴェリナードの魔法戦士が預かるということは、つまり……。
万一のことがあれば国際問題になりかねない重大事なのだぞ?
「大丈夫大丈夫」
「先輩として面倒見てやるニャー!」
ニャルベルト! お前ごときが勇者姫の竜に……
「あらあら、頼もしい先輩ができたわね」
勇者姫は満面の笑みで仔竜を抱き上げ、ニャルベルトにウインクする。
「任せるニャー! みっちり鍛えてやるニャー!」
誇らしげに腕を突き上げるニャルベルト。うんうんと頷く姫君。
この関係、グランゼドーラ公認になるのか……?
ああ、何やら眩暈がする。頭も痛い。
第一、私一人で二匹も面倒を見きれるはずがないではないか。
「えっ、何言ってるの? ミラージュは一匹。私がもう一匹だよ?」
なん……だと……?
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「私だってこの前、クラハさんのところで研修受けてきたもん。魔物使いの免許だって持ってるよ」
「頼もしいわ、リルリラさん」
「リラでいいよ~」
リラ、口のきき方を………いや、もういいか。
深いため息。
身分の差など何のその。十年来の友人同士のように冗談を飛ばしあう二人を見ていると、悩むのも馬鹿らしくなってきた。
なるようになる、か。
思わぬ展開だが、一応、ドラゴンキッズは手元にやってきたのだ。
少々胃は痛いが、良しとしよう。
いや、するしかないのである。