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流れる滝の上に立ち、滝を臨む集落を逆に見下ろす。
さらさらと流れる水の音が、初夏の空気を涼やかに変えていった。
レンダーシアの南東部にあたるリャナは、セレド・リンジャハルとアラハギーロを繋ぐ街道地域である。
海沿いに建ち並んだ灯台はその昔、ダーマへと巡礼に赴く人々の道しるべになったと言われているが、ルーラストーンという文明の利器が広まり、乗合馬車も安全なルートを確立した今ではその役割を半ば終え、火を灯す者も絶えて久しい。
それは街道であるリャナ近隣地方の過疎化を助長するには十分な変化だったようだ。今では旅人たちが宿場町として立ち寄ることも稀になってしまった。
すっかり寂れた宿場町といった趣だが、今回、私がここを訪れたのは、ある噂を聞きつけたためである。
リャナの東、古代遺跡の眠るソーラリア峡谷への立ち入りがようやく許可されたという噂だ。
話によれば早くも耳聡い冒険者たちが我先に乗り込み、遺跡を荒らしまわっているとか。考古学者たちも冒険者を護衛に雇い、調査を開始したようだ。
何しろレンダーシアは遺跡の宝庫。遺跡の量ではドワチャッカも相当のものだが、レンダーシアにはかなうまい。
当然、我がヴェリナードの王立調査団も興味津々なのだが、レンダーシアへの渡航には様々な制約があり、大勢で乗り込むわけにはいかない。
そこでレンダーシア探索の任にあたっていた私に白羽の矢が立ったというわけだ。
今回は猫魔道のニャルベルトに留守番を頼み、ドラゴンキッズのソラをお供に加えている。戦力として、というよりは経験を積ませるためという意味合いが強い。
レビュールの奥地でひっそりと育ってきた彼に、新しい世界を見せてやろうというわけである。
「ソーラリアにソーラドーラ、偶然だが似た名前だな」
軽く頭をなででやったが、誇り高き竜の子はプイとそっぽを向いてしまった。
どうも、まだ懐ききっていないらしい。
「ミラージュも苦労してるねえ」
エルフのリルリラが苦笑した。彼女もソラの妹分であるルナルドーラを育てているが、なかなか言うことを聞いてくれないと愚痴っていた。まだ連れまわせる段階ではないとのことで、今回はルナも留守番である。
考えてみればニャルベルトは手間のかからない奴ではあった。何しろ言葉がしゃべれるというのが大きい。
「何を考えているのかわからんというのは、厄介だからな」
トコトコと別の方向に歩いていこうとするソラを後ろから抱きかかえて、ソーラリア峡谷を目指す。手足をじたばたさせているのはじゃれているのやら、本気で嫌がっているのやら。
紫色の翼がパタパタと空をかき混ぜた。