浜辺を打つ波の音を、潮風が運んできた。
太陽もご機嫌。このところ、ずっと上機嫌だ。よほど良いことでもあったのだろう。燦々と照り付ける日の光を浴びて、波もまた負けじと輝く。
ああ、夏だ。夏が来たのだ。潮騒に交じって男女のはしゃぐ声が聞こえてくる。海開きだ。あの老人と名物監視員は今年も業務に励んでいるだろうか。
そんな夏日和に私はといえば、凍えんばかりの悪寒に震え、ベッドでうずくまっていた。
全身を湿った綿で包まれたような、まとわりつく疲労感。
ぷにゃりと柔らかいものが私の額に触れる。これは肉球だ。猫魔道のニャルベルトが自分と私の額に手を……前脚というべきなのか?……当てて熱を測っていた。
「うん、風邪だニャ」
ドクター・ニャルベルトはそう診断した。
「馬鹿は風邪ひかないはずなんニャけどなぁ」
首をかしげる。
「まあ夏風邪は馬鹿がひくって言うしニャ」
勝手な言葉が耳の周囲を飛び交うが、頭が痛くて反論の言葉も出てこない。火照った頭に猫の鳴き声が木霊する。
まったく、厄介なことになったものだ。ため息と共に喉の奥から咳がこぼれた。
「なんか悪いもんでも食べたニャ?」
猫はそんなことを言ったが、大体の原因は見当がついている。
いらぬ気疲れ、悪い頭の使いすぎ。まさしく馬鹿がひく風邪である。
きっかけは、我が魔法戦士団の補給部隊が、とある任務を立ち上げたことだった。