メギストリスの西地区に設置された裁縫施設。
扉をくぐると……この国で扉をくぐるたびに、住人の大半がプクリポだというのにウェディの私がくぐるのに不自由しないスケールで設計されていることに、プクリポたちの視点の広さを感じるのだが、それはさておき……のどかな鼻歌が聞こえてきた。
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「絆の糸は縫い合わせ~♪
緊張の糸はほぐして緩め~♪
仕立てていこうココロの服を~♪」
少々気恥ずかしい歌だが、上手く言葉を繋いだものだ。このポエムの源は、この施設の管理人であるプクリポの裁縫職人。名をパルマンという。なかなかの詩人らしい。
話を聞いてみようかと思ったが、あまり気持ちよく歌っているので、声をかけるのもためらわれた。聞けば、毎日のように歌い続けているのだとか。この施設の名物とでも言えようか。プクランドらしいのどかさである。
せっかくなので、私もここで一つ、縫い物をしてみたのだが……
「ほつれた気持ちは断ち切って~♪
ナミダの雨露、糸にして~♪
新たな思いをアップリケ~♪」
……むう……。首をかしげる。
「愛のボタンを縫い付けて~♪
あなたの思いを掛け合わせ~♪
紡いでいくのさストーリィ~♪」
……首を振る。
気が散る。妙に気になる。
ここで仕事をするには少々、いやさかなりの集中力が必要なようだ。
結局、紡ぎあげた語り部の帽子は、やや歪んだ形になってしまった。ギルドへの納品に回すとしようか。
パルマンは幸せそうに歌っていた。
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続いて、素材屋を挟んで反対側。こちらは鍛冶職人用の施設と聞いている。
扉を開く、と、出し抜けに歌声よりも強烈な何かが私の顔面を襲った。
思わず顔をそむけてしまうほどの熱気。鉄の灼ける強烈な臭いが溢れ出す。その源はすぐに分かった。
鍛冶仕事には必要不可欠な高温の炉が狭い家の中心に鎮座ましましていた。
各種鉱石を扱う鍛冶職人にとって、これが無ければ仕事にならないことはわかる。わかるが、しかし、だ。
……安全面は大丈夫なのか? 大型の炉を除けば他の家々と変わらぬ木製の建物。しかも二階から上は居住スペースのはずだ。
見たところ、特別な防火対策がされているようにも思えないのだが……。
施設を任されているという鍛冶職人のププロフ氏に話を聞いてみたが、今のところ事故は起きていないのだそうだ。
……本当だろうか?
「使うヒト自体、あんまりいないからね~」
ププロフは気楽にそう言った。
やはりバザーの目の前とはいえ、オーグリードバザー以外は出品に使いづらいのが現実なのだろうか。
ある意味、この施設を貸し出している家主にとっては幸せなことかもしれなかった。