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空を見上げる。
色とりどりの光がアラハギーロの空を彩る。
W氏主催による花火大会が今年もやってきた。
夜だというのに空はまぶしく輝き、時折湖面に映る花火の光が鏡面湖を幻想的に染め上げる。美しいものだ。大会会場にこの場所を選んだW氏の慧眼である。
前回、この大会に参加した頃、空の支配者は、赤く輝く月だった。
私がまだ、他の冒険者と手を組むことに不慣れだった時期のことだ。
あれから一年。変わるべきものは劇的に変わり、変わらないものは笑ってしまうくらい変わらない。万色の閃光が夜空を染めては消えていく。星々は静かにたたずんでいた。
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傍らではチームメンバーの数名がW氏を手伝い、花火を打ち上げている。彼らに便乗する形で私もここにやってきたのだが、迂闊にも預けておいた花火を持ち出すのを忘れていた。倉庫の肥やしを消化する良い機会だったのだが……来年にでも回そうか。
クリーニングに出したノーブルコートの代わりに浴衣に身を包み、夜風と花火、漂ってくる煙の臭いを楽しむ。戦いの後の心の洗濯だ。
そう、まったく疲れる任務だった。
主に、戦闘以外の面で、であるが……。
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侵入者を阻むピラミッドのつくりは、悪意に満ちていた。
もっとも、墓荒らしに善意をもって接してやる必要はないのだろうが。
数々の落とし穴が、単に老朽化ゆえのハプニングなのか意図したトラップなのか、少々気になるが、どちらにせよ、崩れた穴を埋め直す墓守たちの姿を想像すると、失笑を禁じ得ない。
仕掛けと迷路、そして亡者たちの吐きかける異臭に辟易としつつ、死者のための通路を一歩、また一歩と進む。
そして彼らはそこにいた。
盗掘団、砂漠のモグラ。
彼らの操る魔物は墓守たちを一蹴し、我々にも襲い掛かってきた。
かなりの苦戦を強いられた、と、白状しておこう。
専門の冒険者を雇わず、リルリラを連れていたのも原因の一つではあるが。
これを打ち倒すことに成功したのは、我々と別にピラミッドを訪れていた、もう一組の探索者の加勢によるところが大きい。
彼らもまた、独自の理由をもってモグラを追っていたらしいのだが、詳しい事情は黙秘とのこと。
だが、その実力は魔法戦士団の猛者たちに勝るとも劣らない……いや、少数精鋭による局地戦に限れば、それ以上だった。
敵を手ごわしと見た私は彼らに援護を要請し、彼らも快くそれを引き受けてくれた。
かくして形勢は逆転し、墓を掘り返す魔物は、自らの身を墓穴の底に横たえることとなった。
こうして、我々は盗掘団の捕縛に成功した。
冒険者たちの詰問に対し、
「墓荒らしても人権荒らすな!」
とのポリシーを口にした砂漠のモグラ。
何やら立派な台詞に聞こえるが、つい先ほど殺されかけた我々の人権も考慮してもらえると嬉しい。
やがてアラハギーロの兵士……あのダラシュという男だ……たちも現れ、盗掘団は御用とおなった。
どうやら全くやる気がないわけではなかったようだが、その後がよろしくない。
ろくに背後も洗わずにさっさと流刑にしてしまったため、我々が追っていた魔物商人との関係を立証することもできず仕舞い。
ダラシュは自分の手柄になったと得意げに語っていた。
どうも、この男とは馬が合いそうにない。
結局、我々としては骨折り損のくたびれ儲けとなった。
……以上が任務についてのあらましである。
ま、ここまではよしとしよう。実を結ばない任務もある。割り切るしかない。
だが、本当に疲れたのはここからだった。