職人の姿を求めて、今日も今日とてアストルティアを巡る。
今回取材対象としたのは、冒険者にとっては非常になじみ深い街である。
……もっとも、私はガートラントのバザーを常用しているため、普段はあまり立ち寄らないのだが……
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赤く熱い輝きのもと、一心不乱に灼けた鉄を打つ職人たちの姿がそこかしこに見受けられる。
裁縫職人の私にとって、これはなんとも迫力のある光景だった。
ここはオーグリード大陸北部、軍事大国グレンを治める王城の一角。武器鍛冶職人たちのギルドである。
その立地からも分かるように、このギルドは国の援助を受けて活動をしているそうだ。
いわば国を挙げて武器生産に注力しているというわけで、なんとも物騒な話である。力と鍛錬を貴ぶグレンの気風、ここにありといったところか。
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そんなグレンで、あえて木工の道を選んだ職人が、このビゴル氏。
グレンの街は、山をぐるりと取り囲み、街道へと続く下層、商店が立ち並ぶ中層、城へと続く上層と分かれているが、彼の職場は中層、賑やかな商店街の一角にある。
彼が取材に応じて曰くところによると、やはり武器職人以外は肩身が狭い思いをしているのだそうだ。
武器ばかりで生活用品がないと困ると思うのだが……
そういえば、知り合いの武器職人も、武器以外のレシピが少ないと嘆いていたが、その原因は戦力重視のグレン政府とギルドとの密接な関係にあるのかもしれなかった。
そういう意味でも、木工職人には頑張ってもらい、武器以外の生産品の価値をグレンの人々に知らしめてもらいたいものだ。
「おう、木製の武器だって強いもんだぜ」
……いや、武器に偏っているのは彼も同じだったようだ。
やはりグレンの気風なのだろうか。
同じ木工職人でも、オーグリードのホルムズとはえらい違いようである。どちらが良いとは言わないが……。
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他に目を引くのは、裏通りに置かれた巨大なランプ。一目でわかるランプ職人のための設備である。
ここを預かるのはキョロという名の女性。
錬金術師であるリルリラに手伝ってもらい、取材を開始すると、なかなか興味深い話を聞くことができた。
闇の職人道具、魔王のランプ。
……ランプの魔人というのは聞いたことがあるが、魔王のランプとは……
どこかの魔王がランプを使うのか?
「なんでも異様なまでにパルプンテが発動しやすいらしいわよ」
と、キョロが語ったのに対し、リルリラは思案顔だった。
リラによれば、ランプ錬金のマスター・ヴェキオには師と仰ぐ人物がおり、その人物は次から次へとパルプンテを連発し、見るものを沸かせたのだとか。
「それが魔王のランプの仕業だと思うのか?」
「さあねえ。ただ腕が悪かっただけかも」
一般的に、狙った効果をつけられないパルプンテは歓迎されない現象である。
もっとも、パルプンテだけが持つ特殊な効果を狙い、あえてパルプンテを求めるギャンブラーもいるらしいが。
「そういうのってドキドキしない? 一度は使ってみたいよね」
キョロはそう語る。
どうやら心底、錬金向きの人材のようである。
ちなみにリラは、といえば、私が裁縫で仕上げた衣服に簡単な錬金術を施して売るだけの仕事をしているので、あまりロマンには興味がないようだ。
……ま、初級錬金でさえ結構な確率で失敗する腕前では、ロマンも何もあったものではないのだが……。
とりあえず、取材対象として面白そうな人物はこのくらいだろうか。
グレンの特徴は、なんといっても武器鍛冶に国を挙げて取り組んでいるという点につきる。
ガートラントとの関係が回復しつつある今、グレンの次なる政策が職人たちにどのような影響を及ぼすのか。
バグド王の動向と共に、要注目、である。