飛竜の峰、ドラクロンの頂点を目指し、風に煽られ、つる草を掴み、一歩一歩、未踏の山を登っていく。
岩天井のトンネルを抜ければ、空が見える。と、そこに待ち受けていたのは風の十字架だった。
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岩山の間を垂直に吹き下ろす風と、真横に吹き抜ける風とが交差し、それぞれの巻き込んだ砂塵や落ち葉が十字を描く。
それは朽ちていく竜たちへのたむけか、あるいは……ここを訪れた我々の未来を示しているのか。
「そうでないことを祈るとしよう」
複雑な地形が生み出した一瞬の奇跡に口元をほころばせつつ、しっかりと足場を確かめる。
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時に山中を貫く水脈と出会い、その清流に喉を潤す。
またある時は火竜の吐息を思わす赤い輝きを放つ水晶を見つけ、その美しさに目を奪われる。
険しくも美しい大自然。力強く生きる竜たちの営み。そして土に返り骨となった竜たちの姿。
それらを眺め、進んでいくうちに、私はある狩人の物語を思い出した。
己の肉体ひとつを武器に、知恵を振り絞りながら大自然に挑む魔物狩人たちの冒険譚だ。
彼らもこんな心境だったのだろうか。
私のお気に入りは太刀や片手剣を振るい、機敏に戦う狩人たちだった。
ギルドナイトと呼ばれる特別な戦士たちには妙な親近感と憧れを抱いたものだ。
そういえば彼ら狩猟者たちの後ろには、狩人を補佐する心強い猫の姿があったらしいが……ニャルベルトは今回、留守番だ。
いつか、ソラと共に連れまわしてみたいものだが。
「そうそう、その物語の中では、雌の火竜は子育ての時期、非常に気性が荒くなるらしくてな」
と、いくつ目かの竜の巣を見つけて、私は言った。
「子供や卵に危険があると、即座に上空から舞い降りて暴れまわるらしい」
そう、例えばこんな風に、だ。
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ズシン、と中空の大地が震える。緑鱗の雌火竜が子供たちを守るように闊歩していた。
額に汗を滲ます。
争いになっても一頭ならばなんとかなるだろうが、ここは竜の巣。まして、これから竜の長に会いに行くのだ。
余計な騒ぎは起こしたくない。
我々は竜を刺激しないよう、忍び足でその場を駆け抜けた。
件の狩人たちによれば、むしろ距離を置いた方が危険で、背後側面に回り近距離から様子を伺うのがセオリーとのことだが……気づかれた! この場合、逃げるが勝ちである。
時にこんなトラブルも挟みつつ、旅は続く。
任務の一環であるため物見遊山とまではいかないものの、正直なところ、私はこの探索行を楽しんでいた。
新しい土地を訪れるとき、私は任務を忘れて一人の旅人になってしまうところがある。
魔法戦士としては少々問題なのだが、探索任務には、むしろこういう性格の方が向いているのだ、と、言い訳しておくことにしよう。
その旅人の心のまま、リラやソラと共に未知の世界を行く。
それは、楽しい時間だった。
だがそれも、白い翼の巨竜が、我々の前に姿を現すまでの話だった。