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色とりどりのドラゴンが殺到する。
私は氷の理力を身にまとい、赤竜に狙いを定めた。ソーラドーラがそれに続く。乱戦を制すには、数を減らすこと。敵を絞り込む。速攻!
が、竜たちも黙って通してはくれない。
竜の牙が、爪が容赦なく私の頭に振り下ろされた。盾に牙を咬ませ、剣撃が爪を払う。
「チィ……!」
舌打ち。傷は無いが、足は止められた。
一方、竜たちの身体をくぐりぬけ、ソラが赤竜に向けて突出する。この形は予定と違う。分断され、速攻は不可能となった。
波状攻撃が始まる。火炎が地を薙ぎ払い、凍てつく吐息は風を凍らせる。
予定とは正反対に、序盤は防戦一方となった。……焦る!
赤竜の吐息がソラを襲い、巨大な爪が小さな体を吹き飛ばした。傍目には、致命の一撃と見えた。
「子供には土台、無理な試練であったか」
竜の長が瞳を閉じる。
だが、次の瞬間、ソラの小柄な肉体はマリのように飛び跳ね、再び赤竜に向かっていった。小さな翼で攻撃をかいくぐり、巨竜の懐へともぐりこむ。
「むう……!」
長が声を漏らした。
男児三日合わざれば括目して見よ。ましてソラは竜の子供だ。
先の戦いから、ソラの最大の弱点がその耐久力にあると考えた私は、このひと月、そこを重点的に鍛え上げた。
ある時は恐竜の巨体にもまれ、またある時はメタルキングを追い回す。
所属する「豊穣の月」の仲間たちにも手伝ってもらった。彼らの協力がなければ、これほどの短期間で仕上げることはできなかっただろう。
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そしてひと月。仔竜の肉体は柔軟にその成果を受け入れ、非凡な成長を遂げていた。
今のソラは単純な耐久力で言えば一流のパラディンに匹敵する。僧侶の援護さえあれば、乱戦となっても簡単に沈まないだけの自力が備わっていた。
「いいぞ、ソラ!」
喝采を上げ、私もまた攻撃をしのぎつつ、勝機を探る。
敵もさるもの。もし三頭が一致団結して襲い掛かってきたならば、さすがに耐えることは難しかっただろう。
だが黄色の翼をもつ飛竜はこちらを侮っているのか、少し離れた位置で様子を伺っているのみだった。
混戦、幾度となく窮地に陥るものの、詰めの一撃が来ない。勝機はそこにあった。
「良し……!」
体勢を立て直した我々は再び攻勢に転じる。
剣を赤竜に向けて突き付ける。五色の光が剣先から空を走り、竜鱗に吸い込まれた。閃光! 竜は苦しげに呻く。
フォースブレイク。あらゆる理力に対する抵抗力を奪う魔法戦士の奥義だ。
機を逃さず、アイスフォースで爪に冷気を宿したソーラドーラが風となって駆け抜ける。私もまた剣を構え、竜の前に躍り出る。赤竜は苦し紛れに火炎を吐き出した。構わず突っ切る!
白刃が閃いた。
凍気熱風を裂き、氷刃熱鱗を穿つ。
「なんだと!?」
さしもの、竜の長が驚愕の声を上げる。
断末魔の咆哮とともに、赤竜の巨体が地響き上げて倒れ伏した。
仲間の敵討ちとばかりに氷の鱗に身を包んだ青竜が飛びかかる。私はフォースを操り、今度は炎の理力を身にまとう。相棒を失った青竜の攻撃には先ほどまでの威力もなく、ほどなくしてこれもまた地に落ちた。
高見の見物を決め込んでいた黄竜は、仲間たちの敗北を見てようやくその気になったらしい。一方、我々は乱戦を切り抜け、残る一体を取り囲む形となる。もはや勝利は目前化と思われた。
が、この黄竜が曲者だった。
気合と共に翼を広げると、続けざまに雷が降り注ぐ。ソラや僧侶たちはそれを避けることができない。包囲網は一気に崩壊する。
立て直そうとする僧侶たちを、耳をつんざく激しい雄たけびで追い打ちする。怯んだ僧侶たちに代わり、私が世界樹の雫を振りまく。かなりの高級品だが、使うべき時に使わねば意味がない。
雷と咆哮が、何度仲間たちを弾き飛ばしたか。
もし、他の二頭と連携してこの技を使っていたならば、我々とて太刀打ちできなかったに違いない。
だが、今の奴はただ一頭。
「ええい、何故最初からそれをやらぬか!」
竜の長が歯ぎしりする。どんな重傷を与え、どんなに足を止めても、あと一歩が届かない。私は薄く笑みを浮かべ、剣を構え直した。
思うに、竜という種族は強すぎる。生まれ持った力だけで大抵の敵をなぎ倒せるが故に、戦術を学ぼうとしない。
「強すぎるというのも考えものだな、竜の長よ」
一方、彼に挑むドラゴンキッズは、私の号令のもと、懸命に小さな爪を突き立てる。
僧侶たちの治癒の呪文が傷つく体を支え、フォースとバイキルトが援護する。
黄龍の体力も、ついに限界を迎える時が来た。
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飛竜が膝を屈する。
赤と青、そして黄。全てが地に伏し、立っているのは、小さき者たち。
ソーラドーラは小さな翼をピンと立て、荒い息のまま雄たけびを上げた。