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星空のもと、勝利の喜びを分かち合う。こういう時、言葉はいらないものだ。
胸に飛び込んでくる仔竜と肩を叩き合い、笑顔をかわす。それだけでいい。
ドラクロンを吹く風は冷たかったが、今の我々には戦いの汗を心地よく癒してくれる恵みの風だった。
「フン……」
不機嫌そうに白竜は呟いた。
「なんいう無様な戦いぶりだ。勇者の盟友とやらは、もっと鮮やかにしてのけたものだ」
「無様でも勝ちは勝ち。これで認めて貰えるのでしょう?」
ム……と、言葉に詰まる。竜の長は誇り高い。今更二言は無いはずだ。
では、と私は避難させておいたサブレを差し出した。
「今度は受け取ってもらえますな?」
いぶかしげに覗き込み、ひょいとそれを爪でつまむ。そして偉大なる竜は興味なさげに目を閉じたまま、豪快にも包みのまま口に放り込むと、ガリガリと噛み砕いた。
だが、サブレの破片を舌で巻き込む瞬間、竜の眼球がピクリと開かれたのを私は見逃さなかった。
慌てて瞳を閉じ、ことさらにそっぽを向いて長はこう言うのだった。
「小魚の食べ物は小さすぎる。全く下らん」
ごくりと飲み込み、横目でこちらを睨む。
「次はもっと大きいのを持ってこい」
「確かに」
苦笑し、一礼する。どうやら母国の名誉は保たれたらしい。
「あー、もう終わってる」
「ニャんだ、出番がなかったニャ」
と、気の抜けた声が背後から響いた。
振り返るまでもない。聞き慣れた声だ。
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エルフのリルリラが、猫魔道のニャルベルトを伴ってやってきた。
どうやら応援……あるいは見物のつもりだったらしい。
「もし負けてたら吾輩の魔法でパパっと片付けてやろうと思ってたんだけどニャ」
「……今度は猫だと?」
ギロリと長は睨みつける。
「貴様ら、竜の聖域をなんと心得るか」
「まあ、猫島と似たようなもんかニャ」
うんうんと頷く猫。竜は一瞬、言葉を失ったようだが……怒るのも馬鹿馬鹿しくなったのだろう。手を払ってニャルベルトを遠ざけた。
「いい加減、目障りだ。貴様ら、一刻も早くここを立ち去れ」
ふむ、と私はわざとらしく腕を組んだ。
「しかし、ここを歩いて帰るのは結構な手間になりますな。時間がかかるかも」
ルーラストーンのことなどおくびにも出さず、とぼけた口調で肩をすくめる。
竜はまたも不機嫌そうにそっぽを向いた。
「一刻も早く、だ。二度も言わすな」
私はソラに目配せし、ニヤリと笑みを浮かべる。
気合の雄叫びと共に、ソーラドーラは巨大な飛竜へと変化した。
広げた翼は力強く風を掴み、大きく発達した後ろ足は鉤爪で地を掴む。堂々たる姿。先ほど戦った飛竜たちと比べても遜色ない。
ほう、と、長も頷く。
私はその背にまたがる。リルリラも一緒だ。ニャルベルトも飛び乗る。
ゆっくりと羽ばたき、地より離れる。
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「ニャ、これは快適だニャ」
はしゃぐ猫。長は嘆息し、大げさにかぶりを振った。
「魚に猫を背にのせて……こんな無様な飛竜は初めてお目にかかる」
「では、新しい時代の幕開けですかな」
「馬鹿を言え」
ゆっくりと長の周りを旋回しつつ、ソラは器用に翼で手を振った。
長の瞳に、また例の優しい光が一瞬灯るのを私は見逃さなかった。
「偉大なる竜の長よ。ヴェリナードの魔法戦士は貴方の寛大な御心を決して忘れないだろう」
「ワシはすぐ忘れるぞ。小魚のことなぞ、興味は無いからな」
背を向け、しかし一度だけ振り向いてこう言った。
「だが菓子はもってこい。口に合えば食ってやる」
「魔法戦士団の名誉にかけて、約束しよう」
飛翔。
竜が空を行く。
風巻くドラクロンのその風に乗り、滑空する。みるみる内に飛竜の峰が遠ざかっていった。
大地を見下ろせば、地図で見たレンダーシアそのものの姿が広がっている。緑なす大地を細い街道が白く切り裂き、川は青く美しい曲線を描いて海へと注ぐ。
「これにて一件落着だニャ」
満足げに、ニャルベルト。風を切る音と共に、ソラの返事が響いた。
私はその頭を撫でてやりながら、前方を顎で示した。ミニチュアのように小さなグランゼドーラの街がそこにあった。
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「さて、勇者の元へ凱旋といこうか」
雄叫びと共に竜の翼が風を切る。
大空を、飛ぶ。
グランゼドーラまでは、一っ飛びだった。