結局、この日の我々の調査は、わずかに残された地上部分の探索にとどまった。それも開かずの扉に阻まれ、ほんの入り口程度の探索である。いずれこの扉をくぐる日も来るだろうか?
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発見できた遺物のうち、目を引くものと言えば魔除けとして使われていたのであろう聖水、そして美しい輝きを放つ水晶だった。
錬金術師たちの間で時の水晶と呼ばれる、高級な素材だ。その名の通り、生成には長い時が必要なのだという。
久遠の時を経て生み出されたこの水晶はしかし、使われることなく古代文明の崩壊と共に瓦礫に埋もれ、今、再び長い年月を経て現代に発掘されたわけだ。
「なかなか趣深いとは思わんか?」
名残惜し気にまとわりついた古代の土を布巾でふき取ると、リルリラに水晶を手渡す。
「まあ、そうかもね」
エルフは小さな手のひらの上で水晶を転がした。彼女も錬金術師の端くれ。おそらく錬金術師ならではの感想を述べてくれることだろう。
「……そういうエピソードで色をつけたら普通より高く売れるかな?」
……現金なコメントをありがとう。
どうも、これはロマンとは無縁な生き物らしい。
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そんなやりとりをしていると、遺跡内を散歩……探索とは言うまい……していたソーラドーラが、何かを咥えて戻ってきた。
「どうした、ソラ」
屈んで覗き込むと、それは小さな紙切れ、いやさカードか。
嫌な予感がコメカミを走る。
ひょっとすると、これは……。
「あー、アトラスくんだね、これは」
ひょいと取り上げたのはリルリラ。予想通り、件の期限付きカードだ。
大きなため息。まったく、ロンダルキアの連中はいつからこの仕事をしているんだ? この建物の住人たちも、お得意様だったのだろうか……。
おそらく彼らも制限時間を恐れて、箱の中にしまいっぱなしにしていたのだろう。私の鞄の中の箱と同じようなものだ。
時の彼方の人々に、思わぬ共感を覚える私であった。
「ミラージュが溺れ死んだら、その箱も100年ぐらい後に発掘されるかもね」
リラが笑う。嫌なことを言うんじゃあない。苦い顔を返しながら私はカードを鞄に放り込んだ。
人と魔族の意外なつながりを示すこのカードは、考古学的資料として重要な価値を持つ、かもしれないが、どうせ720時間後には消えてしまうカードだ。
私の手に渡ったのが運の尽き、早めに使ってしまうとしよう。
こうして遺跡の探索にもオチがつき……もとい、ひと段落つき、我々はその日の寝床を求めて人里へと向かった。
こんな孤島にも人の営みはあるもので、住民たちは突然の来訪者である我々を快く受け入れてくれた。
我々はこの島の唯一の宿泊施設に通される。
「うーん、ニガテな雰囲気」
リルリラが頭を掻く。僧侶がそんなことを言っていいのか?
建物を見上げる。
島の岩盤と半ば一体化したその建築物は、孤島の修道院と呼ばれていた。