夜の修道院。ささやかな食事と祈りの時間が終わると、もう虫の鳴く音が聞こえてくる。都会の喧騒とは無縁のマデ島。ここでは俗世を捨てた女たちが慎ましやかに暮らしている。
「こんな粗末な食事でごめんなさいね。海が荒れる前はもう少し良いものが手に入ったんですが」
「いえ、急にお邪魔した我々に対し、このようなもてなし。こちらこそ申し訳ない限りです、マザー」
軽く頭を下げる。マザー・リオーネはこの修道院を取り仕切っている女性である。優しく若々しい瞳をした人で、目だけを見ていると妙齢の女性にすら見えるが、口元に浮かんだ皺と白く染まった髪の毛が、彼女がすごしてきた年月の長さを我々に告げていた。
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「静かな島ですね」
「これでも今夜は賑やかな方でしたのよ。お客さんが来るなんて、久しぶりでしたからね」
マザーはそう言うが、我々が最初に顔を見せた時の修道女たちの表情が、私には忘れられない。
物陰から様子を伺う彼女らの姿は、追われ怯える小動物を思わせた。遺跡探索が目当てと知ってすぐに安堵の微笑みを顔に浮かべたが、完全に警戒を解いたわけではなさそうだ。
駆け込み寺、というものがある。エルトナの古い風習で、立場の弱い女たちが男と縁を切るために寺院に身を寄せることを言う。
孤島の修道院。神に仕える女だけが住むマデ島も、似たような役目を果たしているのではないだろうか。
男がどんな権力者、富豪の類であろうと、寺院は治外法権。神の威光がものを言う。ましてこの島は海という物理的な障壁に守られている。女たちは俗世から切り離され、そこから第二、第三の人生を踏み出すのだ。
とはいえ、縁を切られた男たちも、物分かりの良いものばかりとは限らない。力ずくで連れ戻そうと乗り込んでくることもあるだろう。そんな時、寺院は断固としてこの侵略者を打ち倒さなければならない。駆け込み寺は、女たちが敵から身を守るための、文字通りの砦だったのである。
神聖さの中に、どこかよそよそしく排他的な空気を感じるのが、私の錯覚なら良いのだが……。たまにこちらに視線を送り、すぐに隠れてしまう修道女たちの影を見るたび、私は妙な居心地の悪さを覚えるのだった。