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寒空に舞う桜を手のひらに受け止める。
花びらの春めいた明るい色合いとは裏腹に、それを運んできた風の冷たさに私は身震いした。
カミハルムイは常春の都というが、風は正直だ。
すっかり冷たくなった空気の中に咲き誇る桜はハネツキ博士の功績として有名なものだが、実際、目の当たりにしてみると奇妙なものだ。
桜は、春の日差しの下に咲くのがいい。
……等というと、博士に懐いたあの少年が怒るだろうか? ま、元気にやっているらしいが。
かつての冒険を思い出しつつ、熱い茶で体を温める。
エルトナ大陸を総べるカミハルムイの都。ここに私がやってきたのは、弓の技術を学ぶためである。
魔法戦士として弓を学び、現時点で公開された技は全て習得した私だが、さらなる技術公開が目前に迫った今、もう一段階、上を目指す必要がある。
レンジャーとしての修業は全て我流で行ってきた私にとって、この都に設置されたレンジャー協会本部は縁遠い場所だったのだが、そろそろ顔を出すべき時が来たようだ。
そう思い、簡便な手続きを済ませるとともに、レンジャーらしい装いを一着、見繕ってみることにした。
購入したのは古代王族の服。ただし、安物中の安物だ。そこまで本格的にレンジャーを目指すわけではないのだ。
一応、蘇生呪文が失敗しない程度には魔力を高めておく。多少は使い物になるだろう。
後は、ドレスアップをどうするか。……ここが一番の問題である。
私がレンジャーと聞いて想像するのは、シャーウッドの森を守る伝説の弓使い、ロビンフッドの物語だ。
特に、彼を少年として描いた子供向けの冒険譚が心に残っている。
ヒロインのマリアン嬢がなぜかサイキックパワーに目覚めるなど、今からすれば奇妙な点も多々あったが……
ともあれ、せっかくレンジャーとして修業を積むならば、ロビンフッドを再現してみたい。こうしたコンセプトの元、私はドレスアップを開始した。
まずは羽根つき帽子。色は青か緑。服の色も同じだ。手足は白。それに赤いマフラー。まあ、そんなところだろう。
帽子は魔法戦士団ハットがそのまま使えそうだ。
胴装備として、最初に目を付けたのは王宮魔術師のローブ。マフラー、胴、腕の色分けが理想的だ。
……だがこの装備、一つ問題点がある。
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ウェディの私が装着すると、微妙に丈が足りない、ような気がするのだ。特に走っている時などにそう感じる。
気にしなければ、そこまで変ではないかもしれないのだが……
……気になる。パスだ。
次に目をつけたのは盗人の服だったが、これは大失敗だった。マフラーと腕の色が連動しているため、赤と青のどぎつい配色となり……伝説の配管工を名乗るならばありかもしれないが、私が目指すのはロビンである。
結局、初級魔法戦士の服を使うことにした。マフラーはついていないが、襟巻で誤魔化せる。おそらく。
……だが、上着が長袖で腕と胴の色が同じになってしまうのは致し方なしか。
とりあえずマフラーの代わりに襟巻を赤くしてみたのだが、どうもしっくりこない。これまた致し方なし、服に合うように黒く染める。
……こうなるとズボンだけ白というのも妙な話だ。こちらも黒くする。
なお、ズボンとしては求道者のズボンがベストだったのだが、私の財布がその出費に猛反対したため、玄武で妥協している。白い炎模様は気にしないことにした。
……こうして、一応の完成を見たレンジャー用装備であるが……。
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……ロビンフッドからはかなり遠ざかったような気がする。
いや、あまり考えたくはないのだが、どう考えてもこれはロビンでもレンジャーでもなく……
「あっ、郵便局員のオジサン! いつもお手紙ありがとう!」
誰がオジサンかッ!! ……もとい、私は郵便局員ではないッ!!
通りすがりの少年は驚いた様子で逃げていった。
……どうやらロビンフッドへの道は長く険しいようだが、とりあえずはこれをレンジャー用装備として使ってみよう。
こんにちのアストルティアではレンジャーといえば斧、ということになっているが、私にとっては弓こそがレンジャーのイメージである。
一つ、そのイメージを実現できるよう、頑張ってみようか。
新たな技術解放の時代に向けて、やりたいことが一つ増えたことになる。
果たして上手くやりくりできるかどうか。
それは次代が訪れてから、ゆっくりと考えることにしよう。