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「魔物だからって簡単に殺しちゃダメなのよ。脅かして追い払えるなら、その方がお互いのためなの」
ユウギリ先輩はピンと指を立てる。
思わぬトラブルもあったものの、私は他の新人数名と共にモリナラでの実施訓練を開始した。
増えすぎた魔物の駆除、減りすぎた魔物の保護。伐採量の管理。レンジャーの仕事は思った以上に地道、かつ大がかりなものだった。
……それにしても、大量発生して生態系を乱すスカルガルーは、見逃しても意味がないのでは……?
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「森は広いから、別の場所に移動してもらうのよ。一か所に大量発生しなければ大丈夫」
と、いうことは、単にその場から追い払うのではなく、周囲一帯にしばらく近づかなくなるくらい恐怖を与える必要があるのか……
……もはや「みのがす」というレベルの話ではないような気がするぞ、それは。
「そうよ。ただ見逃すだけだったらレンジャーの特殊技能なんて言われないわ」
誇らしげに胸を張る。どうも、レンジャーの伝えるサバイバル技能とは生易しい技ではないらしい。
こうして森の問題を解決しながら訓練は続く。
念のため身分を伏せておいた私だが、魔法戦士として弓を学んだことは、すぐにばれてしまった。
「クセがあるんだよ。お前らの弓にはさ」
とはレーノスの台詞だ。
彼に言わせれば、狩人として獣を狩るための弓と、戦技としての弓は別物らしい。
「殺気が強すぎて、そんなんじゃ森の獣は逃げちまうぜ」
その言葉の通り、私の狩りでの戦績は散々だった。弓の腕前には自信がある方だったのだが……。
一方、弓の腕前以上に戦果をあげる新人の姿もあった。狩りだけでなく、魔物への処置も森の歩き方も、全てにおいて新人離れした成果を見せる。
「凄い……十年に一人の逸材かも」
ユウギリ嬢はそう評した。どうやら、期待のホープといったところらしい。
「私、負けないようにしなきゃ……」
ごくりとつばを飲み込むユウギリ嬢だった。
そんなある日、レーノスが新たな事件の発生を告げた。
珍しく口数少なに、険しい表情のまま報告を行う。
「……無断で木を切ってる奴らがいるぜ」
ポランパン支部長の眉間にしわが寄った。
今度の問題は、魔物を追い払うほど簡単な話ではないようだ。