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風の町、アズラン。
地形的な理由なのか、ここではいつも西向きの強い風が吹いている。庭先では竿の上で洗濯物が暴れていた。
中央広場にある裁縫用の施設も同様で、針子が縫い物をする傍から、シルクの生地が風にはためく。……この場所で良い品を作るのは、かなり難しそうだ。
「かえって集中力が付くわよ」
とは裁縫職人、ミゾレ氏の台詞だが、私は遠慮しておこう。
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できればアズラン名物の温泉宿で体を休ませたいところだが、そうのんびりしてもいられない。
門番一人、立たせたきりの木こりギルドへと足を急がせる。
実を言うと、公開されていないギルドの中を見られるのではないかという期待もあったのだが、残念ながらガードは固く、私は門の前で待たされることになった。
門の隙間から奥の社と、柵に囲まれた洞窟のようなものがちらりと見えた。魔物除けの柵に見える。一体、何が眠っているのやら気になるところだが……
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ややあって、受付の男が戻ってくる。
わかったことは、伐採同盟なる組織に木こりのギルドは関与していないこと。そしてもう一つ、最近、林業を主産業とする村が魔瘴の影響で廃村となり、村人たちが難民として各地を渡り歩くようになったということ。
「彼らが伐採同盟の正体だ、と?」
「断言はできません。しかし、ありうることですね」
ギルドの男は冷静に言った。
「出所不明の木材がエルトナバザーに流され始めたのも、同じ時期からです。大量にね」
おかげで、まっとうな木こりたちの懐にも少なからず影響が出ているという。
魔物の出没する森の管理はレンジャー協会の管轄だが、木こり達の動向に関してはギルドが詳しい。レンジャーが森を管理し、ギルドが木こりを管理する。この二つの組織は蜜月関係にある。情報交換も定期的に行われているらしく、やり取りは慣れたものだった。
「取り締まらねばなりませんな」
私は腕組みする。武装した違反者を取り締まる武力は、ギルドにはない。これもレンジャー協会の担当だ。
「魔瘴の影響という不幸は考慮しましょう。所定の罰金さえ払えば、ギルドの一員として迎える用意は致します」
「その、さえ、が問題なのではないかな」
違法行為に走るほど追いつめられた村人たちの懐に、余裕があるとは思えない。
「労働で支払っていただく、という手もありますよ」
レンジャー協会も手が足りないのでしょう、と男はほくそ笑んだ。
こんなことも日常茶飯事、なのだろうか。
傍から見ればのどかに見える木こりの世界も、色々な事情が絡んでいるらしい。
ともあれ、一応は解決の糸口が見つかったことになる。同盟の連中にギルドの仕事を斡旋して生活を安定させると同時に、レンジャーの下働きもさせることで監視下に置く。
私はギルドからの書状を手に、モリナラへととんぼ返りとなった。
温泉宿の呼び込みが私の後ろ髪をぐいぐいと引っ張る。次に来たときには、ゆっくりと温泉を楽しみたいものだ。