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「うおおおお!!!」
雄叫びを上げながら、レンジャーが斧を振り回す。
迎え撃つ森の精は、動く大木の姿である。
斧が幹に突き立てられ、枝が引きちぎられる。苦悶の声と共に大木が悶える。
……ううむ、何やら絵的には非常によろしくな気がするのだが。
「おいおい、俺らとあんま変わんなくねーか?」
同盟の一人がぼそっと呟いた。
「に、肉体言語による話し合いの最中です!」
ユウギリ嬢はそう弁護するのが精一杯だった。
「だが、一つわかったことがあるぞ」
と、私は言った。
「何がだ?」
「それはな……」
葉を刃物に変えて飛ばし、闇の魔力で容赦なくレンジャーを攻撃する森の精の戦いぶりから、わかることはただ一つ。
「森の精は、心の底から人を憎んでいる、ということだ!」
「ダメじゃねえか!」
思わずツッコミを入れる同盟の男だったが、私にとってそれは重大な発見だった。
つまるところ森の精は神ではない。森もまた一つのエゴイスティックな生命であり、それゆえ、他者と衝突する。
だからこそ、調停者が必要なのだ。
「その調停者も容赦ねえ戦いぶりだけどな」
「ま、手を抜いてどうにかできる相手でもないだろうからな……」
やがて枝の大半をへし折り、憎悪の精霊樹が無力化したころ、レンジャーはおもむろにステップを踏み、ポルカを踊りだす。
光り輝く蝶のような妖精が一体、また一体とレンジャーの周りに現れ、戦場は瞬く間にダンスホールへと変わった。
木漏れ日の元、軽やかに舞う妖精とレンジャー。元旅芸人の私の目から見ても、なかなかの踊りっぷりだ。
「……で、何で踊るんだ?」
「友好の証だろう。歌や踊りは世界共通だからな」
攻撃力を失った精霊樹の周りを、楽しげにレンジャーたち。
「……挑発してるようにも見えるけどな」
そんな捻くれた見方をしてはいけない。見ろ、様子が変わったではないか。
レンジャーの身体から、光り輝く何かが飛び出し、精霊樹の太い幹へともぐりこむ。と、憎悪の霊樹にその輝きが宿り、光が広がっていく。
「上手くいったらしいな」
と、レーノス。
「精霊が力を貸してくれたのね」
ユウギリ嬢も続ける。
未熟な私には何が起きたのかよくわからないが、どうやら事態は好転しつつあるようだ。
私はほっと胸をなでおろした。……撫で下ろして、ハッと気づく。
「なんで上手く行ったってわかるんだよ」
伐採同盟の男が口をとがらせる。……尖る口がある時点で、何か気づくことは無いか?
「おお~、戻ったニャ~」
「ほんとに木になってたんだね~」
猫とエルフも拍手で迎える。
ブナの木は無骨な男の姿に、柳はすらりとしたウェディの身体に。華やかな桜は美しいエルフの少女に。森が消え、人々が現れる。呪いの時は終わったのだ。
……さて、ニャルよ。さっさと私の肩から降りてくれ。リラも人に寄りかかるんじゃあない。重いぞ。
「ニャ?」
「あらま」
私は久々に背伸びしてヒレを揺らした。植物も悪くないが、やはりヒレが無い身体というのは違和感がある。背びれで風を叩き、耳ヒレをピクピクと動かし、私はようやく生き返った気分を味わうのだった。