
「……こうして、人々は元の姿に戻ることができました。森の精を説得するため、手を貸してくれた精霊たちは、今もこの森で人々のことを見守っています。人々は自分の行いを反省して、森と仲良くするようになったということです」
ほのぼのとした声で子供たちに物語を語り聞かせるのはユウギリ嬢。子供たちは拍手、大人たちはさすがに苦い顔である。
どうも、レンジャーともども教材となる運命は変わらなかったようだ。
ここは森はずれの洞穴。元、伐採同盟の面々が家族と共に、仮の寝床として使っている洞窟だ。
あれから元に戻った私は魔法戦士団にことの顛末を報告し、ついでにひと月の不在について始末書を書き続ける羽目になった。木でいる間はあまりそのあたりのことが気にならなかったのだが……やはり樹木は気が長いものなのだろうか。
そんなわけでこってりと絞られた私は、久しぶりに彼らの様子を見るために、この森にやってきた。
あの事件からしばらくして伐採同盟は解散したようで、今では木こりのギルドとレンジャー協会の指導のもと、林業に精を出している。
協会側も同盟側もしこりがないと言えば嘘になるだろう。小さなトラブルは今もあると聞く。が、子供たちの顔を見ると、いつまで争っているわけにもいかなかった。

結局、森の精の呪いは協会と同盟に話し合いの場をもたらし、森の秩序を守る手助けになったわけだ。森の精にとっても悪い結果ではないだろう。
もっとも、それを森の精が意図したわけではない、というのが面白いところだ。
互いに必死に生き、本気で怒り、戦った結果がこういう方向に落ち着いていく。それが自然の法則なのか? ……いや、そういう方向に落ち着かせるべく奮闘したレンジャーの努力を称えるべきか。大抵は双方破滅の道を歩むのだから。
モリナラ大森林に風が吹く。木々の囁きはもう聞こえない。
こうして元に戻ってみると、樹木として過ごした日々のことは、まるで泡沫の夢のように曖昧な記憶となってしまっていた。
それでも白樺の木を見ると奇妙な親近感を覚える。冬の寒さに震える木々を軽く撫でると、白い薄皮が千切れ、色鮮やかな次の樹皮がその裏側から顔をのぞかせる。
私の身体から葉緑素は消えてしまったが、確かに森は生きていた。

彼らの今後も気になるが、私は一通りの研修を終えてレンジャー協会を離れることになった。
あまり弓の技術を学ぶ機会もなかったが、貴重な体験をさせてもらった、ということにしておこう。それも一種の収穫である。
だが実は、最大の収穫はこの後にやってくる。
森を立ち去ろうとした私を呼び止める声があった。
「おーい、行くならちょっと頼まれてくれねえか?」
男は森の一角を指さしている。
私には……いや、我々には見知った一体。木々として過ごした、あの広場である。
今や木々も去り、切り株とまばらな雑木林が並ぶだけとなった森の一角に、変わらず佇む姿があった。
「あれは、確か……」

そして、次の旅が始まる。