キラーマシーンのジスカルドと共闘し、我々はいくつかの作戦を成功させた。
ただし、一つ問題がある。
どの事件でも、我々魔法戦士団が敵を包囲し、追い詰めたと思った次の瞬間、たまたま居合わせた冒険者が乱入し、ことごとく大将首を奪っていくのである。
事件さえ解決すれば手柄に拘ることは無い、とはいえ、やはりいい気分はしないものだ。ましてその冒険者の中に毎回、道具使いが紛れているとなれば魔法戦士として意識せざるを得ない。
そして道具使いの開祖であるデルクロア博士からキラーマシーンを預かる私の背中にも、日々厳しい視線が突き刺さっているのだった。
「主戦場からは、かなり離れた場所に配置されたようですね」
R・ジスカルドの赤い瞳が洞窟をぼんやりと照らしていた。
ラニ大洞穴は、炭鉱の町として知られるアグラニの北部、ラニアッカ断層帯の地下に形成された無人の空白地帯である。度重なる調査を経て、強化薬を使う魔族の拠点の一つがここにあることを突き止めた我々は、包囲作戦を展開していた。
「魔法戦士団は君を完全に信用しているわけではない、ということだな」
ついでにそれをつれてきた私も、だ。やれやれと首を振る。
だがジスカルドはそれを別の意味に解釈したらしい。
「私がかつて暴走したためでしょうか?」
と、伐採マシーンと呼ばれていた時代のことを彼は切り出した。
記憶は失われていると聞いたが、後から説明を受けて、大まかなことは把握しているらしい。
「ま、それもあるかもしれんな」
「なるほど、それについては私も前々から疑問に思っていました」
と、彼は深刻な口調で言った。
「何故、私は廃棄処分にならなかったのでしょう?」
物騒な言葉に息をのむ。だがそんな私を尻目に、ジスカルドは無感情に言葉を続けるのだった。
「一度致命的な暴走をしたロボットは、陽電子脳に根幹的な欠陥がある可能性が存在します。大事をとって廃棄すべきではありませんか?」
淡々とそう言われさすがの私も閉口した。
「廃棄、とはつまり……死ぬということか?」
「機械にとってそれは比喩的な表現でしかありませんが……イエスとお応えすべきでしょう」
またも淡々とジスカルドは答える。自殺志願の機械。聞いたこともない話だ。見た目よりナイーブなのか?
「暴走は無茶な改造が原因なんだろう? そこまで気に病むことは無いと思うが……」
「気に病む……?」
モノアイが数度点滅したのは、まばたきと解釈すべきか。
やがて思考の海から戻ってきたジスカルドは、相変わらずの平坦な口調でこう言った。
「……どうやら貴方はメタファーを多用しすぎる傾向があるようですね、ミスタ・ミラージュ。より正確な表現を用いるなら、私は私という機械の運用方法が適切でないことを問題視しているのです」
「う、うむ……?」
「私の造られた時代、ロボット工学の大家であるアシモフ博士は我々の陽電子脳に最も重要な三原則を埋め込みました。第一条、人に危害を加えないこと。第二条、人の命令を聞くこと。第三条、自らの破損を防ぐこと。これらを備えたロボットは、安全で有益、かつ頑丈で壊れることのない優秀な道具となるでしょう。しかし私は第一条を破ったことになります。これはロボットにとって最もあるまじきことです。私が貴方やドクターの立場であれば、私を廃棄し、同型の、暴走したことのない、より安全なマシーンを購入するでしょう」
ジスカルドは一気にまくしたてた。自分の廃棄を熱弁するロボットは、かなり珍しいのではないだろうか。
「ああ、ジスカルド。それは実に名案だが……」
一歩後ろに引いて、私はこう言った。
「一つ教えてくれ。一体どこのバザーに行けば君と同型のマシーンとやらが手に入るのかを」
ジスカルドが沈黙した。
議論を逃れるための軽口だったのだが、このマシーンはそれを重要な情報とみなしたらしい。丸っこい頭部の内側から何かが回転するような音が聞こえてくる。さしずめ頭脳を必死で回転させているといったところだろうか。
「……なるほど。私は時代の変遷を考慮に入れていなかったようです」
キラーマシーンは頷き、私に向き直った。
「今という時代において、私は稀少な機体であるがために、リスクを受け入れてでも運用し続ける価値がある。貴方はそう仰っているのですね」
「……まあ、そういうことにしておいてくれ」
どうやらこの場の議論は収まったようだ。汗をぬぐい、私はため息をついた。
道具使いが皆、こんな苦労をしながら機械と付き合っているのだとしたら、彼らに対する認識を改めた方が良さそうだ。
機械と人との間を取り持つ。それが道具使い、なのか?
ラニ大洞穴の深い闇に背を預け、私は一人、哲学的気分に浸るのだった。