キラーマシーンは無感情に私を見つめ返した。デルクロア博士も、私を眺めているに違いない。
「私はR・ジスカルドです。ミスタ・ミラージュ」
「だが聞こえているんだろう。君を通して、私の声が、な」
私はジスカルドのモノアイにデルクロア博士の一つ目を重ねて睨みつけた。
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「私も迂闊だったよ。君を魔法戦士団に送り込んだ博士が、何か細工する可能性に気づかなかったんだからな」
ジスカルドは答えない。私はなおも言葉を重ねた。
「君はデルクロア博士に我々の情報を送り、道具使いたちの行動をサポートしていた。そうだな?」
「何故、そう思われるのでしょう」
「君が来た直後から、あらゆる作戦の手柄を道具使いたちが攫っていくようになった。疑われるには十分だと思わないか?」
「証拠はないはずです」
ぬけぬけと言い放つ。肝の玉まで鋼鉄製では、動じないのも無理はない。私はため息と共に腕を組んだ。
「だから罠にかけた。完全犯罪を目論むなら、証拠を残さないことより、疑われないことを重視すべきだったな」
自称「天才的頭脳を持つ犯罪者」が何度、このミスを犯してきたことか。
所在なく顔を見合わせる道具使いたちの姿が、彼の有罪を雄弁に物語っていた。作戦変更を伝えられなかった彼らは、当初の作戦を想定して乱入を準備していたのだ。その結果が待ちぼうけ、というわけだ。
「R・ジスカルドに命令する。デルクロア博士から言いつけられたことを全て話せ」
私は厳しい口調で言い放った。彼自身が語った三原則によれば、彼は人の命令に逆らえないはずだ。
だが、ジスカルドは口をつぐんで沈黙を守るのみだった。
「なるほど、秘密にしろと命令されているな」
第二条がかちあった場合、先に命令したものが優先される、ということだろうか。よろしい、ならば、第一条の出番だ。
いかにも悪役風で、あまり口にしたくない台詞ではあるが……
「もしこの要求が聞き入れられない場合、魔法戦士団が博士に危害を加えることになるだろう」
ジスカルドのモノアイが点滅し、その内部を様々な情報が飛び交うのが分かる。私は冷や汗が滲むのをこらえ、必死でポーカーフェイスを保った。
この冷徹にして忠実なる機械は第一条を守るため、博士に危害を加える者を排除するだろうか。だとすれば、私の目の前にいるキラーマシーンは、恐るべき敵として私に立ちはだかることになる。
だが、そうでないとしたら……。
彼の陽電子脳が情報処理を終えたようだ。赤い光が私をまっすぐに見つめる。
「……貴方がたにそれだけの力があり、私がそれを阻止できない事実を認めましょう。そして私は第一条を守るため、あえて第二条を放棄する判断を下すことができます」
「オーケイ、君は優秀な機械だ」
口ではそう言いながら、私は全く逆のことを考えていた。
人の言いつけに忠実で秘密を洩らさず、しかし人質を取られて悩んだ結果、仕方なく白状する……その様子はまるで人そのものではないか。
機械も突き詰めると人に似てくるのだろうか。私は初めて、彼をユーモラスな存在だと思った。