なりきり冒険日誌~遠い約束(1)
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夕暮れの太陽を背負い、キリカ草原の大地を踏みしめる。旅人たちの頬をなでるエルトナ大陸の風は柔らかい。エルフたちの幽玄な佇まいが木々にまで宿り、風もまた慎ましくそよぐのだろうか。
ここしばらくの間、頭を悩ませていた膨大な量のデスクワークが片付き、ようやく身軽になった私は相方のリルリラと共にいツスクルの村を目指していた。
ツスクルは学問の里。このリルリラも栄えあるツスクルの修士である。あまりそうは見えないが……
冒険者として旅立ち、一通りの基礎修行を終えた彼女は報告を兼ねた里帰りを計画したというわけだ。
そういう事情ならば、その道化師じみた服はどうかと思うのだが、そこは譲れないらしい。気ままな娘である。
私が彼女に付き添ってエルトナくんだりまで出向いてきたのは、何もデスクワークの憂さを晴らすためではない。
そもそも我々ウェディとエルフたちの間には旧交がある。
悪しき太陽が世界を覆い、5種族と人間とが住む場所をめぐって争っていた時代、エルフとウェディは苦しい環境の中、身を寄せ合って暮らしていた。
ツスクルに住むエルフの長老的存在、ヒメア殿はその時代を知る生き字引だという。以前から一目、お目にかかりたいと思っていた人物である。
つまり、リルリラの帰郷を出汁にして、ヒメアという人物を確かめるのが密偵としての私の目的というわけだ。
が、そうは問屋がおろさなかった。我々がツスクルにたどり着いたとき、ヒメア殿は病の床にあったのだ。
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病に侵されたヒメア殿のため、奮闘したのは写真の少女、アカシだ。が、彼女が都合した薬も大して役には立たなかったらしい。
結局、体調が戻るまで面会は無期延期となった。
代わりに、と言ってよいものか、我々の手元に転がり込んできたのは、いにしえの時代に書かれた恋文と、神代の間と呼ばれる、ツスクルに伝わる隠し部屋の情報だった。
リルリラや彼女の学友たちは神代の間に興味を持ったらしく、その場に居合わせた私もなし崩し的に探索に加わることになる。強引さには定評のある彼女である。
我々はツスクルの学舎の建造に携わったドン氏一族の元を訪ね、ドルワームまで赴くことになるのだが……そのくだりは省こう。
古くはドン・モハメ、異説には魔界の名工ドン・ベルク、さらに異説には偉大なる大統領ドン・ガバチョを輩出したというドン家の人物には少なからず興味があり、聞いてみたい話も多いのだが、当面はよしみを通じるにとどめておいた。いずれまた、会うこともあるだろう。
ドン氏から神代の間の情報を聞き出し、再びツスクルへ。
目指す謎の部屋は、ツスクルの地下に広がる迷宮の奥にあるという。