◆ ◆

淡く輝く極光。
星辰の海の中に浮かぶ浮島のような建築物。
一歩、また一歩と足を踏み出すたび、足跡が光の飛沫となって石畳に浮かび、四散する。
澄んだ水のような何かが壁の表面を音もなく流れ落ちる。タイルの模様が歪み、笑うような、嘆くような、様々な表情を浮かび上がらせた。

悠久の回廊。そう呼ばれる空間に、私が足を踏み入れたのは、つい先ほどのようにも、半日前のようにも思える。
勇者姫アンルシアとその盟友が大魔王との決戦を宣言し、彼女の元に多くの勇士集ったのが、一巡りほど前。
腕自慢の冒険者たちに、各国選りすぐりの戦士たち。我がヴェリナードの魔法戦士団からも数名が選ばれ、レンダーシア探索を任務としていた私もその中に加わった。
目指すは奈落の門。エテーネ島にそびえる光の神殿の奥底。
大魔王が目指す創生の力の根源、創生の霊核が眠るという聖地だ。
聖地でありながら奈落と呼ばれるその所以は、誰も知らない。だが、穏便な場所ではなさそうだ。
入念な準備を整え、いざ突入と乗り込んだ矢先、我々は怪異な光に包まれ、離ればなれとなり、今に至るといういわけである。
あてもなく、星の海を彷徨い続ける。行けとも行けども、宵闇とまばらな光だけが支配する世界だ。
天馬ファルシオン曰く、悠久の回廊は霊核を目指すものに試練を与える。
これも、試練の内なのだろうか……?

さまよううちに、巨大な建造物が見えてくる。
混沌とした星の海の中にそびえる、半透明の素材で作られた四角錐。表面に浮かんだ幾何学模様が、オカルト的な雰囲気を醸し出す。
近づくと、扉がある。文字が刻まれていた。"望郷の間"と。
注意深く扉に手を振れる。と、開かれた隙間から光芒が滲み出た。それはやがて決壊したダムのように輝く波濤を溢れさせ、私に向けて押し寄せてきた。
逃げ惑う間もなく光の奔流に身を飲まれ、景色がぐらりと揺れる。
空白……