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浮島の一つに建てられた丸い社のような建物に入ると、部屋全体が動き出すのが分かる。
ドルワームでよく見る神カラクリの類だろうか? ここが創生の女神が創った神殿であれば、文字通り神のカラクリというわけだ。
悠久の回廊を進む私は何度かの魔物の襲撃を辛くも退け、ようやくここまで辿り着いた。
頭上にはこれまで通ってきた浮島が空を漂うように流れていき、眼下にはまだ見ぬ浮島が、海を流れるように浮かんでいた。まだまだ、道半ばということらしい。
カラクリが動作を終えると、震動と共に出口が現れる。そこに向かおうとして、私は周囲の様子が一変していることに気づいた。
部屋の円周に沿って取り付けられた窓の外に、眩しい景色が見える。若緑の木々に、褐色の山々。青く輝く海と空……。
「絵、なのか……?」
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窓辺に近づくと、驚いたことにそれはゆっくりと動いていた。いや、部屋の方がまだ動いているのか……?
丸い部屋の周囲を巡る景色に、私は見覚えがあった。
正面に見えるのはドラクロン。神話の塔も隣に見える。後ろを振り返ればリンジャの塔。
レンダーシアだ。これまで旅してきた大地が、窓の外にあった。
それぞれの窓をつぶさに観察していくと、窓によって色合いが違うことが気づく。
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扉のすぐ右には、深い青の窓。星のような輝きがそれを彩る。さらに右にずれると、夜明けの光が輝く。扉の反対側に設置された灯は、太陽だろうか。
時の流れに沿って足を運ぶ。扉の近くに戻ってきた時、窓は夕焼けの赤に染まっていた。
そして再び、夜の闇。
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描かれたレンダーシアは、その壁の中をゆっくりと回り続ける。
ここはエテーネ島。輪のように内海を取り囲む、レンダーシア大陸の中心。
もし創生の神々が自らの創りたもうた大地を観覧するならば、ここより相応しい場所は無いだろう。
私はあの魔幻宮殿を……大魔王の美術館を思い出した。世界を額縁に入れて飾った宮殿……。あれは、この部屋を模して造られたものなのではないだろうか?
神の模倣。神々への挑戦。大魔王の決意表明というわけだ。
だが、私にはここで神々の真似ごとをしている時間はない。
夜への扉を開く。
再び星辰の世界が待っていた。