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よくよく調べてみれば、この世界は海も水も作り物で、呆れた頃に海面に座ることすらできた。
どうも、この試練は余程急ごしらえの代物らしい。
それにしても、解せない人選である。歩きながら、私はそちらの方に思考をずらしていった。
いや、まったく納得がいかない。ほとんど言語道断である。
何故、ウェディが一人もいないのか!?
怪しからん。我が種族にも美女は何人もいるはずだ。
ディオーレ陛下やセーリア様は流石に畏れ多いとしても、ユナティ副団長だって国内外で評判の美女である。
ルベカも、まあ、身内のひいき目を差し引いても器量は悪くない部類だろう。田舎くさいのが玉に瑕だが。
クイーン選挙に出ていたのは、確かヒューザの奴が目にかけている少女……ソーミャといったか。彼女は年齢的に選外でも納得だが、風乗りの少女やリゼロッタが選ばれて、自分だけ選ばれなかったと知ったら、またスネてしまいそうだな……。
他に、有名なウェディ女性と言えば……。
……ううむ。目を閉じて低く唸る。
一人、抜群の知名度を誇る女がいることはいる、のだが……。
私は胸元のロザリオにそっと手を触れた。
硬い感触が伝わってくる。合成に合成を重ねた結果、そこらの盾よりよほど固く鍛えられた、頑丈なロザリオだ。
冷たい十字の輝きに、女の笑顔を重ねる。湧き上がる、暗い衝動。
うむ。やめておこう。あれは選外で構わない。深くうなずいた。
ところで、私は男だから美女の出迎えとなったが、女冒険者には、別の面々が出迎えたのだろうか。
アストルティアで、名の知れた美男子といえば……。いくつかの顔を思い浮かべる。
まずは、ヒューザの奴か。最近、妙にアイドル扱いされているそうだしな……まあ、無難な人選だろう。
ナイト選挙でそのヒューザを制した英雄殿も当然、候補に入りそうだ。
他には……
トーマ王子や黒渦の男は美男と呼んで差支えないだろうが、いくらなんでも彼らがここにいるのは不自然だ。仮にも騙すための罠である。
……まあ、他の面々も不自然さでは似たようなものだが。
彼らを除外して考えるとなると……
フム。首をひねる。意外にも候補者が少ないことに気づく。思えば、ナイト選挙の面々は変化球を多投しすぎである。オーディス王子は、候補者に数えてよいのだろうか……?
私はふと、以前聞いた噂話を思い出した。
ダーマの神官が、こんな神託を得たというのだ。
「深刻な美男子不足……」
と。
当時は何を馬鹿げた話を、と一笑に付したものだが、ことここに至ってようやく合点がいった。
あれは、このことだったのか。
だとすれば、女冒険者を誘惑する男役とは、すなわち……
不自然な長身、きらりと光る眼鏡。
まつ毛色に染まるビーチを想像する。
……吐きそうだ。
げんなりとした想像の中で、私は自分が男であることを神に感謝した。
この予想が当たっているのかどうか。別行動中の女冒険者に、そのうち聞いてみることにしよう。
そんな話を、笑いながら語り合えるようになったら、だ。
今はまだ、戦いのさなか。
大分、気が抜けてしまったが、気を取り直し、再び歩き出す。