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灰色の嵐が悠久の回廊に吹き荒れる。余りの風圧に一瞬、立ち止まるが、やがてそれはおさまり、雪のように星が降る暗い道に、一条の光が浮かび上がった。
光は浮かんではまた散っていく。その連続が一筋の道となった。道の先頭を歩むのは幼い少女の姿だ。その足跡がラインとなって私を導く。小さな娘はやがて美しく、凛々しく成長し、勇者姫の姿となる。
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手探りでそれを追う内に、追っているのが私一人でないことに気づく。戦士に僧侶。勇者のもとに集った冒険者たち。どうやら彼らも無事、試練を乗り越えたようだ。
彼らの足跡もまた、光となる。
私は軽く手を上げてサインを送り、光のラインに加わった。
勇者の足取りから溢れた輝きが、彼女の歩んできた道を教えてくれる。
父と母、兄。美しい思い出の箱庭に、空席が一つ。
もう二度と座ることの許されない、空席。
これが、彼女に与えられた試練か。
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少女は過去を振り切り、盟友の手をとる。
そして、全ての試練が終わりを告げた。
前にそびえるのは奈落の門。
長い道のりだったが、ここからが本番だ。
勇者姫は扉の前で立ち止まり、冒険者たちの集結を待つ。一人、また一人と勇者の元に戦士が集う。
最後の一人が辿り着き、アンルシア姫は深く頷いた。
「奈落の門に突入します。皆、油断しないで」
凛々しく剣を抜き放ち、扉に手を振れる。
光が溢れ、勇者の姿が閃光と共に消える。
と、同時に我々もまた光に包まれた。
光の渦の中に、漆黒の炎が見える。
その中心に、威風堂々と立つ一人の男と、男に傅く騎士のような姿。
「これが最後の戦いよ」
勇者アンルシアは、そう宣言した。