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念じの玉が戦場を飛び交い、勇猛な戦士たちを次々と捕える。いかに屈強の戦士と言えど、この魔力にかかれば何もできない。私は弓に持ち替えると、守り星の力で援護に徹した。臨機応変。使える力は全てつぎ込むべき戦いだ。
マデサゴーラが魔力を集中する。距離を取り、退避しようとした私は突然、謎の力で弾き飛ばされた。結界だ。大魔王が周囲に張った結界は、その外に出ようとするものを吹き飛ばす。邪悪な笑みを浮かべたマデサゴーラが魔力を爆発させ、私は直撃を喰らった。
身体が、いや魂さえ弾け飛びそうなその衝撃に耐えられたのは僧侶の援護のおかげだった。でなければ即死していたに違いない。感謝の言葉を口にしつつ、結界に気を払いながら注意深く距離をとる。策略好きな大魔王は、搦め手もお手の物か。
「落ち着いて。冷静に対処すれば勝てない相手ではないわ!」
勇者姫が檄を飛ばす。
不思議なものだ。
私ごときではとても太刀打ちできない絶大な魔力を、今もその身に受けたばかりだというのに、勇者の言葉には不思議な安心感がある。
彼女と共に戦うだけで、自分の力が二倍にも、三倍にもなるように思えた。
これが、勇者の力か。
他の戦士たちも、層なのだろう。初めこそ魔王の威圧に押されていた冒険者たちだが、やがて足並みをそろえ、その力に対応し始める。ここまで積み重ねてきた経験は、それだけの対応力を我々に与えていた。
やがて、勇者の剣が痛烈な一撃を突き入れる。
致命の一撃に見えた。喝采!
……だが、マデサゴーラは微動だにしない。
勇者の一撃でさえ、大魔王の顔に浮かんだ笑みを消すことはできなかった。
「この程度で、勝ったつもりか?」
大魔王は両手を天に掲げる。
と、どこからともなく黒い腕が飛来した。勇者の盟友が驚愕の叫びをあげる。
その驚愕は、一瞬の間をおいて、私にも伝染することになる。
「大いなる闇の根源よ! 古き契約に従い、余に力を与えたまえ!」
大魔王の発した言葉が、私に与えた衝撃は大きかった。
動揺が足元を襲う。
思い出すのは、宮殿に記された"記録"たちだ。
大魔王は冥王と契約し、レンダーシアを封印する力を与えた……その記録から、闇の根源とはマデサゴーラのことだとばかり思っていた。
だが今、目の前で繰り広げられている光景は、何だ。
黒い腕は黒い霧となって大魔王を包み、その内側から、蝶が蛹を破るように巨大な何かが姿を現そうとしている。
この戦いすら、さらに大きな流れの一部でしかないのか……?
やがて耳をつんざく轟音と共に闇が晴れ、天を貫く巨体が姿を現した。
脚と翼は伝説の怪鳥。振るう爪は百獣の王より鋭く、尻尾は蛇となりなまめかしく舌なめずりする。
そして首から上は猛々しい竜の姿。
巨大な合成獣と化したマデサゴーラは、勝ち誇った笑みを浮かべた。