◆ ◆

空が、深緑色に染まっていく。また、新しい「世界」が創られたに違いなかった。
白い光を切り裂いて姿を現した巨獣は、その口から凄まじい勢いで息を吐き出した。
衝撃に耐える。が、体が言うことを聞かない。他の冒険者たちも同じだ。
「毒か!」
目がかすむ。身体が震える。脚も、思うように動かせない。おぼろげになった魔獣の姿を必死で見上げる。
「その通り。普段ならば、耐えられたかもしれんな」
マデサゴーラが勝ち誇る。
「何度も試みて、その内一度か二度、成功するかもしれない……そんな努力を繰り返さねばならんわけだ」
クックック、と笑いが漏れる。醜悪な微笑。
「この世界では不要な努力だが、な!」
不浄の魔力が周囲を覆う。身動きが取れず、さらなる毒が体に回る。
辛うじて難を逃れた僧侶が救助に当たる。私もなんとか体勢を立て直すと、再び弓に持ち替える。守り星が頼みの綱だ。
勇者姫も負傷者の治療に専念する。だが攻撃を担う戦士達は、息切れを起こしたように立ち止まる。大斧を重そうに抱え、振り下ろすも、普段の勢いはまるでない。
「補給を……!」
体力、魔法力ともに底をつき、戦士は力を発揮できない。他の者は守るので精一杯。私も守り星をばらまくのに必死で手が回らない。
大魔王は悠々と魔力を開放し、不浄なる毒をまき散らしていった。
「ええい、ままよ!」
弓による援護を捨てて、戦士の元へ走る。賢者の聖水を振りまき、その場をしのぐ。が、駆け寄ったその場所は、大魔王が魔力を注ぎ込んだ場所でもあった。
爆発。瘴気が体にまとわりつき、再び動きを封じられる。満身創痍。敵はこちらを振り向こうともしない。不浄の巨体が、私の頭上にそびえ立っていた。
どしりと足音を響かせながら、魔獣が向かうのは勇者の元だ。勇者姫もそれを支える盟友も、毒で身動きが取れない。とどめをさすつもりか!
マデサゴーラは猛々しくも禍々しい肉体を誇示し、傲慢な表情を浮かべた。
阻止しようにも、私は指一本動かせない。動くのは、口ぐらいか。
……ならばせいぜい、抵抗させてもらおう。
「どうかね、勇者と仲間たちよ。創生神となった余の力をその身に受けた感想は」
勝ち誇るマデサゴーラ。
私は苦痛に歪んだ顔に無理矢理に笑みを乗せ、重苦しい空気の中で顔を持ち上げた。
「鳥に蛇に竜……」
私のつぶやきにマデサゴーラが訝しげに視線を落とす。まるで足元の私の存在に、今、はじめて気づいたとでも言うように。
……そうだろうな。
フンと鼻で笑いながら私は言葉を続けた。
「強そうな生き物を出鱈目に繋ぎ合わせただけ。まるで子供の考えた最強の怪獣だな」
ピクリ、と魔獣の爪が揺れた。
「芸術家にしては、センスに欠ける。三流もいいところだ、な」
大魔王がくるりと振り向く。どうやら標的は変更らしい。
口元に笑み。瞳は少しも笑っていない。プライドでも傷つけられたか、三流魔王……!!
「率直な感想をありがとう。次の創作の糧にさせてもらおう」
マデサゴーラは翼を羽ばたかすと、宙に浮いた。そしてそのまま、巨体を叩きつける。ランドインパクトとはよく名づけたものだ。何の変哲もない、ただの押しつぶし攻撃。
動きを封じられた私は、避けることさえできない。
衝撃が体を走る。
痛みは一瞬。次の瞬間、私の意識は真っ黒に塗りつぶされた。