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一瞬で出戻り。同じ過ちの繰り返し。天馬のため息。自己嫌悪と反省で流石の私も頭が冷えた。
「じっくりと策を練ることです。勇者姫と彼女の盟友は、まだしばらく持ちこたえることができるでしょう」
むう……片膝を曲げて座り直す。石畳がやけに冷たい。
一刻も早く援護に駆け付けたい気持ちは今も同じだ。だが、二度ならず三度までも同じ失敗を繰り返すわけにはいかない。
治療を受けながら、私はゆっくりと敗因を分析し始めた。
不浄の世界に対抗するには何が必要か。行動に誤りはなかったか……。
治療を終えた他の冒険者たちも集まり、戦術を相談し始めた。いたずらに数を送っても勇者の負担を増やすだけ。お互いのできることを確認し合い、再突入の部隊を選別する。
補給も必要だ。ここまでの戦いで、随分消耗してしまった。
使いを出し、物資を取り寄せる。こんな時に限って、賢者の聖水は高騰していた。まったく、足元を見てくれる! 40ほど買い集め、約16万。大魔王への挑戦料か。
必要と思われる二、三の武具も取り寄せる。
焦燥の中で、どれくらいの時間が流れただろうか。空には月が浮かんでいた。
補給物資が全て到着するまで、まだしばらく時間がかかる。はやる気持ちを抑えて、私は選抜メンバーに食事をふるまった。輪を作り、ささやかな晩餐。最後の晩餐、にはするまい。
「ミラージュ、貴方には頼れる友人がいるはずです」
と、天馬ファルシオンは輪の中に鼻先を伸ばした。
「彼らの手を借りてはいかがです?」
月を見上げる。何人もの熟練の冒険者の顔が浮かぶ。確かに彼らであれば、私などより余程役に立つだろう。
だが……
私はニヤリと馬面に笑みを返した。
「力なら、もう借りていますよ」
今、仲間に振舞った料理は豊穣の月、鬼の副長にして天使のシェフ、アストレイの作。
腰に帯びたライトニングソードは聖騎士兼鍛冶職人、ザラターンの打ったものに、冒険者にして錬金術師、ほむ・N・来栖が高度な錬金術を施したもの。
盾に施したエムブレムは月輪に月桂樹。豊穣の月の紋章だ。
培った経験も、力も、彼らとの数々の戦いが育んてくれたもの。
一人でも戦える。今でもそう思っている。だが、一人でここまで来たわけではないことも分かっている。
そして、それは嬉しいことだった。
「さて、行くか」
物資が到着すると、ちょうと食事も終わったところだった。
再び、悠久の回廊へと足を踏み入れる。
今度こそ、最後の戦いにしてみせよう。誰言うとなく呟き、頷き合う。
天馬ファルシオンは何も言わず、ただ我々を見送った。
月は天高く遠く、ただ静かに輝いていた。