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けたたましく鳴り響く爆音が四方八方から襲い掛かる。ヒレが震え、頭が痛む。一つ一つは意味のある音楽なのだろうが、ここまで重なると騒音を通り越して音の荒波である。ウェディの私は半ば翻弄されながらその中を彷徨っていた。
娯楽島ラッカラン、その象徴とも言われるカジノが大放出を始めて数日。人の波もまた四方八方を駆け巡る。今も、私の前を素早く横切った影が、空いた席に駆けこんだ。どうやら椅子取りゲームも導入されたらしい。
ふうむ、とため息。
以前、とある場所を訪れた際、私は「勝てると分かっているゲームが楽しいはずがない」と言ったものだが……。この混雑ぶりを見るに、相当楽しいらしい。
私もなんとか空いた席を見つけ、スロットを回してみたが、なるほど、噂に違わぬ大放出ぶりだ。一度当たり始めると連鎖的にコインが積み上がっていく。こんなことで商売が成り立つのか? と、余計な心配までしてしまったほどだ。
これでは病みつきになる者も多いだろう。
一方、常連客の一部からは、これはもはやギャンブルではない、と嘆く声も上がっているらしい。
もっともな意見だが、要らぬ心配だと私は思う。
本当のギャンブルは、この先に待っているのだから。
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「でっきた~♪ うまいこといったよ! 君が こいつを気に入ってくれるといいな!」
ヴェリナードのリーネ。彼女はカジノオーナーほど甘くない。
今日も今日とてカジノが放出したコインを一人で回収し、ついでにゴールドも巻き上げる。
私も今回、初めて神秘のカード合成に挑戦してみたのだが、結果、刻まれた強化の刻印は体力2、攻撃力2、素早さ4。
悪くはないが、素早さは別のものに上書きしてみよう、ともう一枚交換して再度の挑戦。
「ねえお客さん、素早さ4と器用さ4、どっち残す?」
「好きにしてくれ」
……もう一枚チェンジ。
「回復魔力2ってどう?」
「魔法戦士の私にはあまり旨みがないな……」
「へー、残念だね~」
文字通り他人事の様子で彼女はカードをくるりと回した。カードの裏に、私の顔が映って見える。ひらひらと、掌の上で舞う。リーネの指先は熟練のディーラーより鮮やかに、神秘のカードを踊らせた。
どうも、コインを全て巻き上げられる前にこのギャンブルを切り上げた方が良さそうだ。
そういえば……ふと、私はカジノがオープンした頃のことを思い出した。
当時、私はカジノの景品が換金できないことに注目し、世に溢れたゴールドを回収する機関として機能してくれるのではないか、と期待していた。
だが現実はそう甘くなく、景品の敷居の高さとリスクゆえ、結局は一部のマニアや富裕層を惹きつけるにとどまった。少なくとも私の目にはそう見えた。
が、しかし……
今、溢れ出したコインがカードに変わり、そのカードをリーネが有料で合成することで、奇しくもカジノはその機能を全うし始めたように見える。
要するにカジノ自体がゴールドを回収できなくても、景品の流れ着く先で回収できれば、それで良いわけだ。
だがカジノ単独でも、リーネ単独でも、この構図を実現することはできない。
つまり……
疑惑の目を向ける。
この女、カジノ・オーナーと結託しているのではないか? だとすれば、あの常識外れの大放出にも説明がつく。
リーネが売り上げの何割かをカジノに回すことでカジノ側も潤うのだとしたら……
「ヤッホー。ここはアクセサリー合成屋だよ」
今日も笑顔を振りまく彼女の瞳に、とてつもなく深いものを見た、ような気がした。
さて、ここからは余談なのだが……。
リーネの裏に潜むモノの巨大さに圧倒されていたせいだろうか。私はミーネに復元を依頼する際、気もそぞろで適当に指示を出してしまったようだ。
ミスに気付いたのは、受け取りの瞬間。
「できました」
「ありがと……うッ!?」
違和感に顔をしかめる。ミーネは怯えた表情で後ずさった。
次の瞬間、背びれに猛烈な視線が刺さる。睨むなリーネよ。怖いぞ。
「いや、何でもない」
ミーネに笑みを向ける。多少引きつっていたかもしれないが。
私は指定を誤ったらしく、アヌビスのつもりで受け取ったアンクには、オシリス神の名が刻まれていた。
長い顎髭を持つ冥界の王オシリスの加護は、持つ者に敵の進撃を押し止める力を与える。
……パラディンの修業でもせねばならんか……? 素人に近いのだが……。
ま、出来てしまったものは仕方がない。アヌビスはお預けだ。
最近は秘宝探索もかなりご無沙汰していた。久しぶりに行ってみるきっかけにはなったか。踏破していない霊廟もあることだし、な……。
冒険に焦りは禁物。カジノも合成も、ほどほどにやっていくとしよう。
焦ったところで、リーネのさじ加減次第なのだから。