
甘い空気が周囲を漂う。辛党の私でも、ついつい目を奪われてしまう。クリームと砂糖、そして美女の香りに包まれた、ここはショコラフォンティヌ城。祭神ファルパパの加護の元、今年も美女たちが"聖戦"を繰り広げる。
そう、アストルティアクイーン総選挙の季節である。
勇者姫の物語も魔法戦士団の任務も一区切り付き、しばらく身体の空いた私は久しぶりにゆっくりとこの手の行事を楽しんでいた。
ま、我らがディオーレ女王陛下がご出馬あそばされないとあっては、興味も半減ではあるが……。
それはそれとして、祭りは祭り。美女たちの顔ぶれとパフォーマンスを楽しみ、順位予想でもしながら過ごすとしよう。
まずは前回の1位、2位。勇者姫とセラフィ嬢が入場する。勇者姫は今回も優勝候補筆頭と言えそうだ。
セラフィもまだまだ人気を維持しているだろうが、前回ほど勇者姫に迫ることができるかどうか……。
続いて入場の初代アストルティアクイーン、マイユ殿によるパフォーマンスは、エルトナの伝統芸能、"ハシゴノリ"を連想させるものだった。確か、トビショクとかメグミとか呼ばれる職人が得意としたパフォーマンスだったはずだ。
その体技はお見事だが、美女たちの競い合う"聖戦"の中では少々浮いてしまった感がある。
岩砕きを繰り返して、その実力にさらなる磨きをかけたという彼女だが……何か、妙な方向に向かいつつあるように見えた。
続く前回4位のクラハ殿は諸事情により出場辞退。私も昨年は投票した相手だけに寂しい限りだが、実際のところ、賢明な判断と言うべきだろう。彼女は、あのタイミングでこそ輝いた女性である。
4位という好成績を維持したまま去っていくというのも、立ち位置としてはかなり美味しい。このあたり、引き際をわきまえた大人の女性らしい判断と言えそうだ。
そして、その逆の立場にいるのが風乗りのフウラとアルウェ王妃である。
「こらこら~呼び方が違いますよ~」
失礼。アルウェ王妃ちゃん様である。
前回の選挙で順位を落としたこの二名の立場は、かなり微妙なものである。
果たして次回も出場できるかどうか、今回の結果次第でそれが決まりそうだ。当落線上のアリア。ある意味、首位攻防戦よりも面白い。
「アズランにひっそりと咲く月見草、風乗りのフウラ!」
ミローレのアナウンスが城内に響く。初代準優勝のフウラも、今ではすっかり月見草。時代の流れとは、げに恐ろしきものである。
風乗りの衣装をまとって出場すれば、新鮮さもあってもう少し順位を上げられそうに思うのだが……。
さらに選手紹介は続いていく。
「あの日のプリティリボン、リゼロッタ!」
何やらもの悲しい肩書だ。
前回、初出場にもかかわらず思うように票を集められなかった彼女もフウラたちと同じ立場だろう。どの世界でも生存競争とは厳しいものだ。
そして新規参戦組。
大方の予想通り出馬した賢者ルシェンダ殿だが、歳をわきま…
「何か言ったか?」
……いや、何も。感想は何もない。私だって命は惜しい。
そして意外すぎる人選、マクフォール家の令嬢、レイ。
主治医の許可を得て参戦とのことだが、そこまでして参加するような戦いだろうか?
「皆様、清き一票を……ぐふっ!!」
頼むから安静にしていてくれ! ミローレも、もう少し考えて人を選んでほしいものだ。
そう、人選は大事なことだ。
何しろ、我らがウェディの代表も……

「ヤッホー、合成屋のリーネさんだよ!」
……これである。
ウェディの女性なら、他にも色々といるだろうに。ユナティ副団長とか、セーリア様とか……ルベカでもいい。素麺のお嬢さんは仕方ないにしても、だ。
もっとも、種族ごと選外となったドワーフのことを思えば、贅沢な悩みか。
前回、下位に低迷した怪盗はあえなく落選。そして彼女に変わる候補者が、ドワーフにはいなかった。
あえて選ぶならドルワーム研究院のアーニアか、無声映画で一時期、注目を浴びたじゃんぼりぃ嬢だろうか……ううむ、こう言っては失礼だが、選ばれなかったのも無理はない面子だな……。
「いや~、財政界ではとっくに女王様状態の私がこっちも制覇したらさすがに嫌味かな~」
……何か、わざと嫌われそうな台詞を言っていないか、リーネよ。
「まあ、ハンデもつけなきゃね。あの台詞を言ったら、勝てちゃうのわかってるし」
あの台詞? 何だそれは
「私に投票してくれた人には合成でサービスしちゃうよ~!」
よせ、反則だ!
「だからやらないってば」
やれやれ……。だが、これでもアストルティアを代表する女性の一人には違いない。選択肢には入れておこう。