
沸き立った城内が一瞬、静まり返る。第3回アストルティアクイーン総選挙、トリを務めるのは、誰かとよく似たあの女性である。
まさか、こんなところで再会しようとは……
「ほう、投票者たちをメロメロにして私に投票させればいいのか。私にふさわしい舞台だな!」
魔勇者は上機嫌で胸を張った。メロメロとは微妙に古い言い回しを……。マデサゴーラのセンスか?
「フッ、仮初めの玉座で運命にあらがう黒蝶。紫電なる復讐者! この私のカリスマ性に勝てるか、勇者姫よ!」
とりあえず黒か紫か、イメージカラーを統一した方がいいな。
存在自体を秘匿されると思っていた彼女の出馬はかなり意外だったが、今後、踏み込んだ人選を視野に入れていくというファルパパ神の意思表明だろうか。
複雑な気分だが、出場者の中で、最もドラマチックな存在ではある。
3人まで選べるなら、まずは彼女に票を入れておくとしよう。
「よし、ならばチョコの創生を手伝ってもらうぞ!」
……食べたくないな、そのチョコは。我々の口に……いや、体に合うものなのか?
ともあれ、投票用紙替わりのクリームを揃えて彼女に差し出す。
「良く持ってきてくれた、感動したッ! 今日からお前は魔盟友だ! 共に戦おうぞ!」
勝手に認定されてしまった。彼女、リンジャのヒストリカ女史と気が合うかもしれんな……。
こうして魔勇者の像を手に入れた私は、次の候補者の元へと向かう。
やはりここは勇者姫か……
「な、なにっ!? 何故あいつを!」
いや、この像、勇者姫の像と並べると絵になりそうだからな。
「……!! そ、そうか……所詮、私は影……あいつの引き立て役にすぎんということか……ククク……ハハハハハハハ!!」
足元を見つめたまま、けたたましく笑う。何やら、トラウマのスイッチを押してしまったらしい。

考えてみれば、私と同じ考えの者が魔勇者と勇者姫の両方に投票すれば、彼女の得票=勇者姫の得票ということになり、永遠に彼女は勝てないという構図が出来上がる。
むう、流石に少し不憫に思えてきたな……。どうせ1回分余るなら、もう一枚だけ彼女に投票しておくか。
「……! と、いうことは、勇者姫は3票、私が4票で私の勝ちというわけだな!」
パッと顔を輝かせる。
「フハハハハ! 考えてみれば、景品目当てで3票までなら誰でも貰えるというもの。4票目を獲得してこそ真の勇者!」
まあ、エルトナではこういうのをホーガン贔屓というんだろうが。
「ホーガン?」
「エルトナの古い英雄の名前らしい」
「ふうん……あまりエルトナっぽくない名前だな」
「まあ、色んな名前があるんだろうさ」
さて、魔勇者と勇者姫、あともう一人は選べるわけだが……。
候補者の顔を見比べる。
この顔ぶれから選ぶのであれば……
色々と悪評はあっても、冒険者にとって欠かせない存在であるリーネ。
初代2位が下位に沈む悲しさは見たくないという理由でフウラ。
このどちらかだろうか。まあ、ゆっくり考えよう。
ついでといっては何だが、選外となった女性のことも少しふれておこう。
まずは、かなり意外だったのが魔女グレイツェルの欠場。性格的にも、必ず来るに違いないと思っていたのだが……パンパニーニ氏が著作権の問題でゴネたのだろうか。
あるいは巷で高額取引されているフィギュアの方の問題か。
ルコリアは……まあ、リゼロッタと争わせるのも忍びないし、これで良かったのだろう。
リンジャのリカ先生ことヒストリカ女史も出場を噂されていたが、残念ながらお呼びはかからなかったらしい。ま、本人もこういう場が苦手そうではある。それでもマクフォール家の令嬢よりは、支持者が多いと思うのだが。
悪役・色物枠としてこれまで参戦していた賢者マリーンの出場枠は、新たな悪役の登場と共に消えたようだ。
新たな悪役枠が魔勇者なのか、リーネなのかは、ファルパパ神のみぞ知る。
女王陛下は……ご多忙であらせられるため、ご欠場も無理はない。魔法戦士として、陛下の像は是非、入手したいのだが……。こればかりは仕方のないことだ。
さて、戦いはまだ中盤。
安定性の勇者姫と爆発力のリーネ。セラフィはどこまで勢力を維持しているのか。旧勢力の巻き返しはあるのか?
聖戦の行方やいかに。
チョコでもつまみながら気楽に観戦させてもらうとしよう。