風になびく絨毯が、山道を這うように飛んでいく。
魔法の絨毯はとてもロマンチックな乗り物だが、制御系に難があるらしく、どうしても座って乗ることができないのが不満の種だ。おかげで私は全身で風を受け止めながら、夜の山道を突っ切る羽目になった。
冬の風に背びれが震える。
セレドの町にたどり着く頃には、すっかりあたりは暗くなり、子供たちの砦である古い教会は清閑な空気に包まれていた。
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屋根の上に半月が輝き、雨の匂いのする空気が街を包む。だが、教会のステンドグラスから滲み出た灯は、夜の空気に柔らかなぬくもりを与えていた。
つい先ほどまで聞こえていた楽器の音色が消えると、それと入れ違いに草むらから虫の鳴く音が聞こえてくる。
耳を澄ましながら教会への階段を上ったところで、私はこの街に君臨する女王陛下とばったり遭遇した。どうも、どこかに出歩いていたらしい。
子供の夜遊びは感心しないが……
「おかまいなく」
リゼロッタは優雅に一礼した。夜道にも目立つピンク色のリボンが、頭の上でヒラリと揺れた。
「その後、変わりはないか?」
「ええ、お陰様で」
「それは何よりだ」
そこで私は先ほどの楽器の音色を思い出し、彼女に尋ねてみた。
リゼロッタの小さな肩が、ピクリと震える。
「子供たちの誰かが弾いていたのか?」
「……ええ」
と、リゼロッタは物憂げな光を瞳に湛え、歩いてきた道を振り返った。視線の先を追うと、紫色の星空のもと、無人の施療院が月に照らされ、浮かび上がってみた。
小さな女王は、口元に切なげな微笑みを浮かべて静かに頷き、ゆっくりと瞳を閉じた。
「……リゼロッタ」
「はい?」
見上げる瞳に、私は思わず視線を泳がせた。
「いや……少し背が伸びたか?」
「は……?」
訝しげに少女は私を見上げた。いや、これは失言だった。そんなはずはなかったな。
だが、彼女が一瞬見せた表情に、えらく大人びたものを感じて、思わずそう口にしてしまったのだ。
「リズ、終わったのかい?」
と、教会の方から声が聞こえてきた。声の主は、小柄でひょろっとした体格の、気弱そうな印象を与える少年だ。
「ええ、フィーロ。さっきはありがとう」
「僕は何もしてないよ」
少年は首を振って、静かに微笑んだ。
やれやれ、私があと少し不注意な性格だったら、また同じ質問をしてしまうところだった。
教会へ入っていく彼らの背中を見送りながら、私は首をかしげた。何かあったのだろうか。
「ねえねえ、知りたい?」
と、背後から声をかけてきたのは、この町に住む幼い少女だった。名前は……ティナ、いや、ティアだったか?
「教えてあげようか!」
ティア(と、呼ぼう)は、誰かに語りたくてうずうずしている様子で小さく飛び跳ねた。
語り部としては幼すぎるが、興味はある。
隣にいたボッシュ少年の解説を交えながら、ティアは語り始めた。
魂の爪弾く音色。その物語を。