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町のそこかしこから、新しい指導者を称える声が聞こえてくる。喜ばしいことなのだろうが、砂漠の砂をはらんだ風がざらざらと肌をくすぐるような、かすかな不快感がまとわりつく。
セラフィに余裕があるなら、得意のホイミで彼らの手首を癒してやるといいだろう。
掌を返し過ぎて痛めているだろうから……。
今やニューリーダーとなったセラフィを称え、祭り上げ、そして新しい時代を築こうという彼らだが、ほんの一巡り前まで、彼女を事件の犯人と疑い、悪人呼ばわりして追い回していたのも彼らなのだ。
まったく、調子のいいことではないか。人々の曇りない笑顔に、頬杖をついてため息をはく。
大衆とは所詮、そんなものかもしれないが……。
「不安と恐怖で誰かを悪役にしなきゃ、やってられなかったのさ。あたし達も、そうだけどね」
とは、事件の途中からセラフィの協力者として活動していた、サンシャという女性の言葉だ。
なるほど、わかる理屈ではある。に、しても極端すぎる気はするが……。
「シメールの奴が、町中駆けずり回ってみんなを説得したんだよ。ま、あんたたちほどじゃないけど、あたしらも苦労したのさ」
どうやら、地道な努力もあったらしい。そうやって汗をかく者たちが、華々しい神輿を支えるのだろう。こういう話も、報告書に記しておく価値がある。
特に、オーディス王子宛てに、詳しく記しておくことにしよう。
ところで、この町の住民たちの名前はベルムドが名付けたものだと聞いているのだが……
サンダーシャウトのサンシャ、マポレーナのレーナ、マジックフライのクフラに、ライノソルジャーのイソル……彼のネーミングには、魔物の種族名を活かすというこだわりがあるようだ。
この調子で全住民の元の種族を考えてみたいのだが、シメール、アズハルなど、元を探し出せなかった名前も多い。
アズゥ、ラランジャ、ベルデの三人はスライムタワーなのだろうが、名前の法則性はどういう仕掛けになっているのか……
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どうやら私もまだまだ勉強が足りないようだ。レモンハルトの道場で修業が必要だろうか。
ちなみにカレヴァン氏はドミニオン、セラフィムなど、神話の天使から名前をとるらしい。
そしてそのセラフィは「チョメ」「ヒョッヒョマン」……インパクト重視だろうか。カレヴァン氏が泣きそうだが……名づけのセンスも三者三様である。
住民たちの一部は、自分の本性に気づき始めているようなフシがある。
セラフィはまだ伏せているようだが……いずれは全てを打ち明ける日が来るのだろうか。その時、何が起こるのか……。
この街にも、まだひと騒動ありそうである。