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○月×日
グランゼドーラへの道すがら、キノコの森に腰掛けて、景色を楽しみながら休憩をとる。
季節によってはキノコが胞子を吹きだすため、注意の必要な休憩所だが、この時期なら安心だ。
水玉ドラゴンが飾り太鼓をゆらしながら通り過ぎ、サイクロプスは棍棒を肩に担いでのっしのっしと散歩する。平和である。実にのどかなものである。
私はワルドの休憩所で購入した雑誌を開き、5大陸の最近の出来事をチェックし始めた。
表紙にはでかでかと美麗な男たちの顔写真。今年もまたクイーン選挙に続き、アストルティア・ナイト選挙が始まったらしい。
出場者の顔ぶれを眺め、戦局を予想するのもちょっとした楽しみの一つだ。
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私が最も注目しているのは、グランゼドーラのトーマ王子。勇者ならぬ身が勇者を演じ、そして演じ通した。その生き様に敬意を表したい。
もっとも、今年はもう一つの衣装で出場するのかと思っていたため、そこは少々拍子抜けだった。
まあ、彼にとっては不本意な衣装だろうから、納得ではあるのだが。
ページをめくると、いくつかのコメントが載っていた。
「心の赴くまま、信じる友のために戦うのは、何ものにも勝る喜びだったよ!」
どこかで聞いたような台詞だが……。とりあえず、冗談が言える程度には祭りを楽しんでいるらしい。結構なことだ。
何しろ私の知るトーマ王子は、常に使命のため、身を捧げているような人物だったのだから。たまには楽しんでも罰は当たるまい。
さて、さらにページをめくる。見知った顔が現れた。ヒューザの奴だ。相変らず、人気らしい。
最近はあちこちに出没して半ば珍獣扱いされているらしいが、私は王者のマントの件で会ったきりになっている。
出没情報に従って追いかければ見つかるのだろうが……
どうも、あの男をアイドル扱いして追い回すのは私の趣味に合わない。我々はレーンの村を共に旅立ち、競い合う関係。あくまで対等の立場だ。
その私が追っかけに成り下がってしまえば、ヒューザだっていい顔はしないだろう。
そういうわけで、最近は疎遠となっているのだが……それはそれとして、同郷のよしみ。とりあえず応援はしてやろう。
「ナイトになるために誰かに尻尾を振るなんてまっぴらだぜ。俺は自分の手で勝利を目指す」
そんなコメントが載っていた。あいつの言いそうなことだ。どうやら、変わりないようだな。
ぱらりとページをめくる。コメントの続きが載っていた。
「……だからアンタも俺を手伝いたくなっただろ? 票を入れてくれてもいいんだぜ」
………。
何を言っているんだ、あいつは。自分の力で勝利を目指すのか応援してほしいのか、はっきりしてくれ。
どうも、妙に腑抜けた印象になってしまったな……アイドル扱いされておかしくなったんじゃあないのか?
追っかけになるのは御免だが……一度会って問い正してみた方がいいかもしれんな。
さて、この後に続くのは前回覇者のザンクローネ。ちょうどアイリの物語がフィナーレを終えたばかりだが……
最後は未来ある若者に華を持たせた感があり、英雄らしく華々しい大活躍とはいかなかった。物語としてはそれがふさわしいのだろうが、票を稼ぐならもう少し見せ場が欲しかったところだ。
お次は黒渦の男。以前は特に興味のない相手だったが、これから始まる戦いの中心になるであろう彼だけに、期待を込めて一票入れてみるのも悪くはない。
かの勇者の盟友にとっては、因縁浅からぬ相手だというしな……。脇役に身を落とすことなく、盟友殿と同格の人物であってほしいものだ。
……もっとも、彼の見た目に惹かれて応援していた女性冒険者がどう思うかは、私には計り知れないところだが。
続いてプクランドから2名参戦。英雄王フォルテイルとラグアス少年王。クイーン選挙で最下位となった母の雪辱に燃える少年王の闘いには、個人的に注目してる。
もっとも、本人は母のことに触れることなく
「同じ王子として、トーマ王子には負けられません!」
とのコメント。意外なところでライバル宣言もあったものだ。展開としては、なかなか面白い。
が、しかし……
そもそも彼はとっくに王子から王になっているのではないだろうか。いつまで王子と呼ばれ続けるのだろうか……
ま、ショコラフォンテヌ城は時間の因果律から解き放たれた場所だというし、細かいことを気にしても仕方がないのだが。
思えば、生死も時間軸も乗り越えて候補者を集めるファルパパ神の力は絶大なものである。何故その力をただのお祭りに使うのか……逆に、祭りにしか使えないからこそ、これだけの力を発揮できるのか……。未だもって謎の多い神である。