窓の外に広がる美しい光景が、疲れた冒険者の瞳を癒す。水色の空と、鮮やかなライトグリーンの草原がいかにも牧歌的だ。
風さえそよいでくるように思える景色だが、残念ながらそれは気のせいである。何しろ、この景色は絵なのだから。
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教会の壁に窓枠のように飾られた風景画が、この町の住人たちの性格を教えてくれる。壇上に立つ神父とシスターが、まるで舞台に上がった役者のようだ。彼らは台本通りに台詞を繰り返す。神よお恵みを、と。その願いが天に届くかどうか、次の脚本は我々次第というわけだ。
小さな体にたっぷりの茶目っ気を詰め込んだぬいぐるみ、もといプクリポたちが住むこの町の名はオルフェア。今、冒険者たちの注目を集めている町である。その秘密は町の西の広場、真っ黒な胴着に身を包んだ一人の老プクリポにあった。
彼の名はプクッツォ。
「五つの理を学び、己を極めんとするものを導く者。人呼んで達人」
……だ、そうだ。
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達人のオーブと呼ばれる不思議な水晶球は、多くの冒険者を宝珠探索の旅へといざなった。
力を求めて……と、いうよりは、思い描く理想の自分に、自分自身を近づけるため、だろうか。達人のオーブには、そういう可能性がある。
私としては、このオーブを冒険者に配布した「宿屋協会の創始者」なる人物に非常に興味がある。宿屋協会と言いつつ、ほぼ「冒険者ギルド」として機能しているこの組織だけに、かなりの人物だとは思うのだが……一体何者だろうか。
魔瘴のはびこるこの時代に冒険者たちが果たしている役割を考えれば、かの聖使者たちと同じく、神に連なる者だったとしても不思議ではないのだが……
ま、考えていても答えは出ない。話をもどそう。
オルフェア西の広場に悠然と佇む達人プクッツォ。彼ら達人の主な役割は、冒険者が見つけた宝珠と石板の鑑定である。
5人いる達人たちの中で、何故プクッツォだけがこうも注目を浴びているのかというと……
「わしの鑑定術は他の達人とはわけが違うからのう」
……ではなく、立っている場所が町の入り口から近いからである。
こうしてオルフェアは冒険者の押し寄せる町となった。この町がこれほどの賑わいを見せるのは、トンブレロ漁が盛んだったあの時代以来ではなかろうか。冒険者は流行に敏感だ。何が町おこしになるかわからない。
「さて、お主の宝珠も鑑定してやろうかの」
と、プクッツォは指先の宝珠を虫めがねでじっくりと観察し始めた。
やがてホウ、と感心したような息を吐き、鑑定結果を口にする。私にとっても緊張の一瞬だ。神よお恵みを。
「これは……まさに極意!」
「極意!?」
私はごくりとつばを飲み込む。達人、カッと目を開く。
「そう……スキャンダルの極意じゃ!」
一転、白けた空気が漂う。スキャンダルの、極意?
達人は拳を振り回して熱弁を振るう。
「これこそは真のスーパースターのみが成し得る究極のスキャンダル術を記録した光の宝珠。わざと醜聞をばら撒き、世間の注目を集めて人気を高める伝説のエンジョー・ストラテジー! そのまばゆさに悪鬼羅刹といえど瞳を奪われるであろう!」
彼の主張が正しいなら、スターというのは捨身の戦術を使うものらしい。バトルマスターも真っ青だ。
まあ、どの道私には……
「縁がないな」
宝珠を袋にしまい、私は達人の元を後にした。
私が狙うのはただ一つ。今、全ての魔法戦士が探し求めているであろう、あの宝珠。
フォースブレイクの極意である。