「いばらのムチを探しているんだ」
偉大なる英雄はそう言った。リュートの音色に混ざって、合いの手のような猫の鳴き声が聞こえてくる。肉球の旗が風になびき、屋外マットの上ではプリズニャンが昼寝中。のどかな猫島。
以前は定期的に行われていた"御前試合"に参加しようと、毎日のように大量の冒険者がこの島を訪れていたのだが、物々しい彼らの姿が猫たちの生活を脅かすということで、キャット・マンマー自ら中止命令を出し、今では平穏そのものだ。
そんな猫島に今日は大勢の冒険者がやってきた。お目当ては目の前のプクリポ。英雄フォステイルがまた出たというわけだ。
事前に噂を聞き、すでに必要なモノは用意してある。
私は勝ち誇った笑みと共に懐からムチを取り出した。
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高く掲げたムチを見上げて、フォステイルは一瞬、演奏の手を止めた。
そして一言、こう言った。
「ミラージュ……私はいばらのムチを探しているんだ」
風が吹いた。ゆらゆらと揺れるムチはトゲひとつない滑らかな皮のムチ。
猫の鳴き声。枝葉のざわめき。リュートの音色もそれに混ざった。
私は無言でルーラストーンを取り出し、天にかざすのだった。
数刻後。
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「嗚呼、8500ゴールドは高すぎた」
「町の武器屋で買えばよかったのさ」
「タイムイズマネー、タイムイズマネー」
奇妙なデュエットが猫島の空気を乱した。
奥地ではキャット・マンマーが、少し嫌な顔をした、らしい。