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先日、古い友人と再会した。
彼の名はモグヤン・スターシーカー。命名者は盟友ザラターン殿。
もうかれこれ2年以上も前になるだろうか。魔物使い達がその技術を一般公開するより更に早い時期、彼は私の家の居候だった。
見た目以上に風変わりなモグラで、穴掘りよりも詩とロマンを好んだ。ある日、彼は突然「星を探しに行く」と言い残して旅に出た。
その後は世界各地を巡ったり、ザラ殿の家に厄介になったり、と気ままな暮らしを楽しんでいたらしいのだが、先日、ふらりと私の家を訪ねてきて、開口一番、こう言った。
「僕は星を見つけたのかもしれない」
そしてコンサートに招待する、と言って一枚のコインを置き、彼はまたふらりと去っていった。
狐につままれたような気分だったが、彼はモグラだ。そして掌の上のコインはいつまでたっても木の葉に化けることはなかったのである。
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こうしてドン・モグーラコインを手に入れた私は友人を誘い、魔法の迷宮へと繰り出した。はじめてお目にかかるドンの姿は星と呼ぶには少々泥臭かったが、こう見えてもモグラ界のスーパースターなのだそうだ。
魔物たちのコンサートに我々が参加するのは命がけである。多くの場合、それは「戦闘」と呼ばれる性質を持つ。そしてコンサートチケットは貴重品だ。実際、次にいつ手に入るかわからない。
ならば先達の経験談をあさり、準備万端整えて、といきたいのが人情だが、その反面、戦い方は自分で試行錯誤して見つけるもの、という気持ちもある。
四苦八苦してなんとか自力で倒した暁には、改めて先人の知恵を収集、「答え合わせ」の時間が待っている。この瞬間が、何とも言えず愉快なのだ。
だが、それはあくまで理想論。ドン・コインを市場で買い求めれば50万は下らない。試行錯誤する間に破産するのがオチである。嗚呼、富くじでも当たらぬものか。
まして友人と共に戦うとなれば、彼らにかかる迷惑も考慮せねばならない。
そういうわけで、新しいコインが福引の景品に並ぶたびに少しばかりの葛藤と戦うことになるのだが……
今回は幸運にも無料でコインを手に入れることができた。負けて元々、と開き直ってもいい状況だ。バザーに流した場合の利益はこの際、忘れよう。わざわざ招待してくれたモグヤンにも悪いではないか。
と、いうわけで、今回はほぼ前情報なしで挑むことにした。
結果……
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惨敗。
……ま、それはいい。悔しくないと言えば嘘になるが、これも貴重な経験だ。
既に彼らとの戦いを経験していたザラ殿によれば、モグラたちはまだ切り札を隠し持っているのだとか。末恐ろしいコンサートである。
最初の内、戦闘は順調だった。調子が狂いだしたのは、ドン・モグーラが「物理テンションバーン」なる叫びをあげて頭部を奇妙に変形させてからだ。
いずれ解除されるかと思い、一旦手を止めるが……どうやらそういう訳でもないらしい。しばらくすると色まで変わった。果たして手を出してよいのかどうか、判断がつかず、ペースが乱れる。
そうこうする内に、ドンの合図で小モグラたちが地中から飛び出した。
そのうちの一匹と目が合うが、声はかけない。演奏中は静粛に。戦闘中は凄絶に。
戦闘において最も恐ろしいのは数の暴力。小モグラとはいえ、侮れぬ相手である。
だが……やはりどこかに甘さがあったのだろうか。掃討に手間取る我々に対し、モグヤンの眼が星のように光った。
そして次の瞬間、私は地を舐めていた。
力を最大限に高めて放ったモグヤンの真空呪文が、私と仲間たちを直撃したのである。
結局、これが致命傷となった。我々は戦線を立て直すことかなわず、そのまま敗北を喫したのである。
こうして初挑戦は敗北に終わったが、学ぶべき所はいくつもあった。
剣でも弓でも連撃を使うことになる魔法戦士は、ドンの頭が緑の内は攻撃を控えた方が良さそうだ。ギガブレイクやマダンテは増援に備えて残しておくべし。
援護すべき攻撃役としては、単発攻撃を得意とする斧使いが良いのではないか。手数を減らしフォースブレイクから一気に攻めきるのが理想だ。
零の洗礼で敵の力を萎えさせる賢者にも活躍の余地がありそうだ。
戦士、魔法戦士、賢者、僧侶、などという構成はどうだろう。勿論、ザラ殿の言う「切り札」を敵が使ってきた時にどうなるかはわからないが。
恐らく既に「最適解」は誰かが考案し、広まっているのだろう。それを参考にするのもいい。だが自力であれこれと考えることは無駄ではないはずだ。なにより……
「それが楽しい」
のである。
土の中に星を見つけた旧友に、また楽しませてもらうぞ、と囁いて私は迷宮を後にした。
私が星を手にするのは、さて、いつの日か。
福引きに通いつつ、次の機会を待つとしよう。