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円盤遺跡を覗き込み、首をめぐらすエルフの姿。視線の先は赤黒く滲む炎の空。私はそれを背後から眺めていた。
かつてアペカ付近で発見した同様の遺跡に対し、私は異世界への扉のようだ、と感想を述べた。アストルティアとナドラガンドを繋ぐ奈落の門からの連想だったがそれはあながち的外れな想像ではなかったらしい。
エジャルナから南へ数刻、迷路のように入り組んだ渓谷を超えた先にある業炎の塔の付近には、エジャルナより派遣された多くの神官達が集結していた。
彼らによれば、この古い建造物は何者かが……恐らくはナドラガ神が竜の民の知恵と力を試すために建造した試練場なのだそうだ。試練を乗り越えた暁には、別の世界、氷の領界への道が開かれるのだとか。塔の脇にあるこの遺跡が、恐らくその役割を果たすのだろう。
ナドラガ教団は総力を挙げて試練に挑み、トビアスという若い神官がようやく第一の試練を突破したという話である。
彼の名はエジャルナでも聞いた。エステラ殿と並び称される有能な神官だそうで、かなりのやり手とされている。いずれ会ってみたい人物の一人である。
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塔の中に足を踏み入れると、そこはこれまで訪れたどの遺跡とも違う、独特の雰囲気に包まれていた。
台座の上でダイスのように回り続ける奇妙なオブジェ。壁にずらりと並んだ古代文字は目まぐるしく書き換わり、機械的な光を放つ。しいて言えばドワチャッカ古代文明を思わせるが、あちらと違い、このカラクリはまだ生きている。
かなり冒険心をくすぐる塔と言えた。
さっそく探索を試みてみたいところだが、さすがに勝手にここを踏破しては教団の面目をつぶすことになるだろう。表向きはただの冒険者ということにしているが、私はヴェリナードに仕える魔法戦士。トラブルは起こしては陛下の顔に泥を塗ることになる。物事には順序が必要だ。要するに、そろそろエジャルナの大聖堂に顔を出してみるべき時が来ているのである。
私はほんの入り口だけで探索を終え、塔を後にした。
教団が他の領界へ行く方法を求めている、という情報が手に入っただけでも、まずは良しとしよう。