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カチカチと機械的な音を立てて、古代文字を刻んだ柱が回る。目まぐるしく切り替わるルーンは見る者に何かを訴えかけているかのようだ。だがもはや失われて久しい古代文明の言語は、我々の目には奇妙な記号の羅列としか映らない。
マシーンの鼓動が、届くことのないメッセージを送り続ける。神々の時代から火花を上げて回転し続けるダイス状のオブジェは、いまだ賽の目を定めることなく、延々とロールを繰り返していた。
薄く燃える青白い灯火が浮かび上がらせた呪術的な装飾の中に、歯車の音と人工の闇が入り乱れた絡繰り仕掛けの塔、業炎の聖塔。
魔術的とも機械的ともいえる数々の仕掛けを突破しつつ、我々はこの塔を昇っていった。
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トビアスを返り討ちにしたという第二の試練は、塔を半ばまで昇ったかというあたりで、挑戦者を待ち受けていた。
水の中に火を灯せ。あり得ぬことを成し遂げて見せよ。それこそが試練なり。炎に閉ざされた重厚な鉄扉の脇に、我々にも読める文字でそう刻まれた石板が設置されていた。
隣の部屋にはエジャルナで聞いた通り、水の満ちた水晶球の中に燭台らしきものを取り付けた、奇妙なオブジェが静かに佇む。
涼しげな青い輝き。どういう原理なのか、台座からはシャボンのような水球が次々と吹きだして水晶へ吸い込まれていく。この世界を訪れてから常にカラカラに乾いていた背ビレが、ほんの少しだけ潤った。湿った空気。それだけで、ここが特別な場所であることは一目瞭然だった。
さて……私はまず水晶の置かれた台座の周りをあらため、何か仕掛けがないかどうか、確認した。世間ではこの手の技術は盗賊と道具使いの専売特許だと思われているが、魔法戦士団は犯罪者のアジトに乗り込むこともあり、罠や仕掛けと対峙することも珍しくない。当然、発見・解除のスキルは必修科目である。
もっとも、今回は空振りに終わった。そもそも、通り一遍の仕掛けならばすでに誰かが見つけているだろう。それこそ、あのトビアスだってそれくらいのことは考えたはずだ。
次は……少し乱暴だが、強硬手段。とりあえず、火を近づけてみる。水晶はびくともしない。
ならばこの水に油を混ぜてみてはどうだろう。表面だけでも燃えれば、燭台にも火が届く可能性はある。
アストルティアより取り寄せたドワチャカオイルを振りかける。と、台座から立ち上るシャボンが、怒り狂ったように激しく噴き出し、それを洗い流した。肌に良いと噂の高級オイルなのだが、お気に召さなかったらしい。
なんとか水晶の中に火種を差し込めるような隙間はないだろうか。あれこれと角度を変えて試してみる。
やがてほんのわずかな、小さな隙間が見つかった。突破口が。
噴射式の手持ち花火に細工を施し、フォースの力を加えて強引に着火を試みる。水と水の合間を縫って、蛍光色の炎が跳ねる。
幾度かの失敗。そして……
「やったか……!?」
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微かな着火音。淡い輝きと共に、人工の炎が燭台に燃え移った。水晶の中に光が灯る。緑色の幻想的な炎が水晶の青と重なり、オブジェはよりいっそう不可思議な光彩を放った。
ついに私は火を灯すことに成功したのである!
しかし、なにもおこらなかった。