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港町レンドアの都心から、夕陽をめがけて線路が走る。早くも冬めいて青ざめた空と夕焼けの間をカモメが一羽、すり抜けていった。
大陸間鉄道、大地の箱舟は汽笛を鳴らし、オレンジ色の空へと吸い込まれていく。十人十色の旅人を乗せて、黄金色の"明日"へと……と、これは少々気取りすぎか。
何も詩人を気取るわけではないのだが、アストルティアに戻ってきてからというものの、空を見るのが楽しくて仕方がない。何しろ"あちら"の空模様と来たら……いやさ言うまい。
炎の領界での戦いも一区切りつき、私は久しぶりにアストルティアに戻っていた。
聞くところによれば、こちらでも、大きな戦いが一区切りついたところだったらしい。
と、いってもあちらとは違って実に平和的な話。アストルティアナイト総選挙の予選のことである。
私も何人かの候補には注目していた。下位から順に、彼らの成績を見ていくことにしよう。
まずは30位、オーディス王子。
決して好成績とはいえないが、正直、ヴェリナードの魔法戦士としてホッとしている。もっと下位に沈むことも考えられたからだ。
いや、決して王子を悪く言うつもりは無いのだが、父君と比べるとどうしても未熟な点が目立つだけに少々心配だったのだ。
私個人としては、王子のことは決して低く評価してはいない。何しろ、掛け値なしの善人である。何をつまらないことを、と言われそうだが、王者に最も必要なのは心根が真っ直ぐであることだと私は思っている。
小才は後からいくらでも付け足すことができる。家臣が補うこともできる。心根と志だけは本人の資質に任すしかない。ひねくれた知恵者などは、王の周りに何人かいればそれでよいのだ。
もっとも、王子の場合、その志である男王志向について、いまいち動機がしっかりしていないという気はするのだが。セーリア様に理由を問われた時には民を守るため、と答えていたが、それは女王を補佐する立場でもできる。それこそ、父君のようにだ。
そのあたりが、言動に今一つ厚みを感じられない所以だろうか……。今後の成長に期待したいところである。
次に、23位、メルー公。
こちらの結果には、大いに驚いている。まさか公がこの順位とは。
10位以内に食い込むことも不可能ではないと思っていたのだが……。
私が公の"実力"を最初に知ったのは、あの暴君バサグランデとの戦いの時だった。当時の私は駆け出しのひよっ子だったが、女王陛下を叱咤する公の姿を見て、この国を陰で支えていたのが誰だったか、はっきりと理解したのである。
その後、公がラーディス流を極めた伝説的魔法戦士だったことを知り、さらに敬意は高まった。
一見するとお人好しの昼行燈。その実態は国を支える勇士。大衆はこうしたギャップに弱い、と思っていたのだが……世の中、思うようにはいかないらしい。
14位のフィーロ少年も、注目していた一人だ。こちらは、かなり健闘した方と言えるのではないだろうか。
非常に地味な少年だが、私が彼を高く評価するのは、ひとえに、セリク少年を相手に一歩踏み出せずにいるリゼロッタの背中を押した、そのワンシーンによるものである。
彼にとっては恋敵にあたる少年だ。放っておいた方が得だろうに、彼はあえて背中を押した。何が大切なことかを理解していたからだ。幼いながら、私情に流されず、正しい判断を下せる男である。
つくづく……彼が大人になったところを見たかったと思う。
13位はトーマ王子。彼の場合、この順位でもまだ足りない。10位以内に入ってほしかった。
彼については以前も述べたので、長々とは語るまい。勇者ではないがゆえに、勇者以上に勇者らしく生きた男だ。彼の生き様は、もっと評価されてよいと思う。
最後に、10位以内入賞を果たした顔ぶれから、ナブレット団長。
粋でいなせな立ち居振る舞い、子供たちのため、あえて悪名をかぶる漢気など、入選も納得の人材である。
最近ではラグアス王に代わってメギストリスを取り仕切り、頼れるリーダーとしての側面も見せてくれた。未だ幼いラグアス王にとって、よき手本になるのではないだろうか。
さらなる活躍を期待したい人物である。
なお……
私と同郷のあの男については、恒例行事なので特にコメントは無い。ま、本戦にのこっていたら余りの一票ぐらいは義理でいれてやろう。
本戦開催まで、まだまだ時間がある。それまでには、彼やラグアス王が心置きなく参戦できる状況になっていればよいのだが。
夕陽も海の彼方に沈み、冷たい風が吹いてきた。
この風が暖かくなったころ、全てが良い方向に進んでいることを祈るとしよう。