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ジュレットに自宅にて。アルバムを開き、古い写真を振りかえる。闘技場で戦う猫魔道、ニャルベルトの姿がそこにあった。
当時なんとなく撮影したものをとっておいたのだが、今となっては貴重な一枚となってしまった。
と、言っても別にニャルベルトに何かあったわけではない。むしろ、ちょっと困るくらいに元気そのものだ。今も、機嫌よく鼻歌を歌いながらカタログをめくっている。
「ニャ~~~。やっぱしメラガイアーは捨てがたいけどニャー。ニャルプンテに全てを賭けるのも通好みだしニャ~」
彼がにらみ合っているのは猫島から送られていた新しい訓練法の一覧表である。
猫の語るところによると、あのキャット・リベリオが猫島にふらりと帰ってきて、旅先で発見した新しい訓練法を猫たちに伝授していったそうなのだ。
猫魔道にはメラガイアーや早読みの杖、プリズニャンにはライガークラッシュやゴールドフィンガー。同じ爪使いであるドラゴンキッズのソラは気が気でない様子だ。
この訓練法と、バトルロードで開催中のバトルチャレンジ大会への出場がニャルベルトの尻尾を刺激したらしい。ピンと立った尾の先で空気をくるくるとかき混ぜる。大会の興奮がまだ残っているようだ。
「結構強い奴もいたんニャけど、やっぱり決め手は吾輩のニャルプンテだったニャー」
ここ数日、この調子である。
「お前にも見せてやりたかったニャー。写真とれればよかったんだけどニャー」
彼の言う通り、バトルロードではこのバトルチャレンジ開催に伴い、撮影禁止の規則が導入されている。おかげで先の写真が貴重品になってしまった。
パーティバトルこそ、写真におさめたいのだが……何か問題でもあったのだろうか。カレヴァン氏のコメントが待たれる。
「ま、お前もたまにはアラハギーロに来るニャー」
パタンとカタログを閉じる。結局、今のところはニャルプンテの成功率を最大限まで高めるため、メラガイアーを諦め、"器用さ"のトレーニングを引き続き行うことにしたらしい。
一方、ソラもカタログを咥えて足元に寄ってきた。彼が牙で印をつけたのは、なんと"癒し"のトレーニングだった。
一瞬、呆気にとられたが、よく見ればこのトレーニングのラインナップは、ザオリクをはじめとして術の心得が無くても100%性能を引き出せる呪文ばかりだ。さらにどういうわけか、体力強化のカリキュラムも並行して記載されている。万人にお勧めできる新トレーニングというわけだ。
自己強化と蘇生術を両立した物理アタッカーは冒険者にも滅多にいない。今後の旅に備え、なかなか悪くない選択と言えるのではないだろうか。
「お前もたまには大会にでるニャ?」
ニャルベルトが髭を揺らすと、ソラは見事な宙返りで応えるのだった。
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さて……
魔物達が新たなチャレンジに挑む一方、私もまた、新しい挑戦を開始していた。
冒険者たちを震撼させた常闇の竜レグナード。かの魔竜との戦いである。
一度、小手調べとばかりに他の冒険者と共に挑んでみたのだが、勝ち目無しとの判断により、途中で戦いを打ち切ることになった。
その後、先人たちがもたらした知識を元に作戦会議が行われていたようなのだが、私は一旦パーティを離れ、しばらくの間、独力で挑むことにした。
元より四人がかりで歯が立たなかったものを私とサポートメンバーだけでどうこうできるとは思っていない。だが、まずは外部からの情報を遮断した状態で、出来る限り戦ってみたかったのだ。
負けると分かっていてもいい。せめて相手の本気を引き出し、その脅威を肌で体験し、自力で対策を練ってみたい。全力を尽くした上でなすすべなく敗れ、消費した世界樹の葉や聖水の量に頭を抱えるのも醍醐味の一つだ。
誘ってくれた友人たちには申し訳なかったが、私はその旨みを取りこぼしたくなかった。これは紛れもなく私の我儘である。
手を変え、雇うサポートメンバーを変え、最終的には調査のためと自分を納得させて職も変え……
「で、どうだったニャ?」
「まあ……善戦、といったところか」
私の精一杯の強がりを、猫の長い鳴き声がなぶった。実際、惨敗である。せいぜい、序盤は使わなかった雷による攻撃を引き出した程度で、まだ敵は実力の半分も見せていないという印象だった。
だが、最低限、敵の特徴をつかむことはできた。いわば、この挑戦で私は対策を考えるベースとなる知識を仕入れたのだ。
後は何を整え、どう戦うか。そして魔竜がどれだけの力を温存しているかだ。
まずは敵の体力を半分奪うことを目標にやってみることにしよう。
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「アストルティアの冒険者にも、色々いるのですね……」
竜守の巫女が不思議そうにつぶやいた、らしい。