何事にも流行り廃りというのはあるもので、今、旬なのはやはりバトルロードとレグナードだろうか。
普段はクールな竜守の巫女もあまりの来客数にてんやわんやだそうだ。
一方、こちらの守り人は暇を持て余している。アルハリ砂漠の地下深く、かつては黄金色にきらめいていたファラオの寝床に気だるげな機械音が響く。
機械竜ダークネビュラス。かつてアストルティア最強のモンスターとして一世を風靡したピラミッドの番人である。
栄枯盛衰夢の如し。あれほど連日押し寄せていた冒険者の姿もすでに無く、この竜は世に忘れられた存在となっていた。
さらさらと乾いた砂の流れる深い闇の中を、暗黒星雲が闊歩する。1000年の時を刻んだ砂時計は、次の1000年へと彼をいざなう。永遠の虚無。
もっとも、墓守という彼の役割を考えれば、仕事が無いにこしたことはないのだろうが……
「ま、たまには仕事をするのもいいだろう」
私は剣を抜き、彼の前に立ちはだかった。
機械竜は一瞬動きを止めた。
そして、まるで忘れかけていた己の存在意義を思い出したかのように、ギラギラと輝く赤い光を瞳に灯し、大きく首を持ち上げた。
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きっかけは、酒場の噂話だった。
その酒場を、交流酒場と呼ぶ。
冒険者たちが自らの体験談、戦いの記録や他愛もない笑い話を披露しあう場所である。
旅の合間にここを訪れ、彼らの話に耳を傾けるのは、私の密かな楽しみの一つである。
そんな酒場で語られる冒険譚の中に、ダークネビュラスとの戦いを綴ったものがいくつかあった。
私もかつて友人たちと一緒に挑んだが、その時は魔法使いとしての挑戦だった。その後、いつか魔法戦士でも、と思いつつ日々の忙しさや新しい戦いにかまけて、半ば忘れていたのだが……
彼らの体験談を聞くうちに、今ならば魔法戦士でも戦えるのではないか、という気になってきた。いや、むしろ魔法戦士だからこそ、戦えるのではないか……
と、いうわけでレグナード討伐に沸く冒険者たちを尻目に、私はアルハリの砂漠へやってきた。
折も折、レグナードに対抗するため、耐ブレス装備に身を固めた冒険者が多数酒場に登録されている。時期的にも、今がベストだろう。
構成は、実に単純。
私:魔法戦士
サポートメンバー:僧侶3人
3人の僧侶が鉄壁の守りで敵の猛攻をしのぎ、私がネビュラスの体力を一人で奪いきる戦法である。
バイキルトをかけても、あの漆黒の装甲を貫くことはできないが、隼斬りで急所を的確につけば装甲の厚さなど問題にならない。
フォースブレイクを初めとした切り札は温存しておき、増援のメカバーンが現れた際に一気に放出、手間取るようならマダンテも使っていく。
増援が現れたタイミングでフォースが解けているとタイムロスを招くため、武器は予めライトニングソードに持ち替えておく。
メカバーンを倒しきった後は、切り札をダークネビュラスに向ける。超隼斬りとギガブレイクは貴重なダメージ源だ。
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戦線はかなり安定していた。
仮に私が倒されたとしても、次の瞬間、3人の僧侶によりザオラル、ベホイミ、聖女の守りが一気に飛んでくるのだから、ネビュラスにとってはたまったものではないだろう。
まあ、その布陣すらあっさり崩壊させるレグナードのような敵もいるにはいるが……あれは例外である。
問題は、かなりの長期戦になること。つまり魔法力の管理が重要になる。
ここで最大の活躍を見せるのがマジックルーレットの宝珠。ネビュラスのミサイルがほどよく体力を削ってくれることもあって、かなりの頻度でルーレットが使用可能になる。
用心して早めの回復を心がけたため、魔法の聖水を5~6個程度使ったが、消費した物資はたったそれだけ。
魔法戦士の面目躍如、と言わせてもらおう。
このように、ほぼ負ける要素の無い戦いだったのだが、一つだけ懸念点があった。
それは……この敵からは、逃げることが可能、ということである。
戦いの中でうっかり敵から離れすぎてしまったら……長い長い戦いが全て無駄になってしまうのである。
戦闘が長引くにつれて、戦いとは別の意味での緊張感が高まっていく。
最後のマダンテがネビュラスの装甲を焼き砕いた時、私の神経はボロボロに疲れ切っていた。
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ともあれ、かつて夢に過ぎなかった魔法戦士とサポートメンバーによるダークネビュラス撃破をこうして達成することができた。
嬉しいのは勿論だが、それ以上に、あのネビュラスが、という思いが強い。
いつの日か、レグナードも魔法戦士とサポートメンバーで撃破できるようになるのだろうか……
先のことなど分からない。ケ・セラ・セラ。
とりあえずは今日の戦果に満足し、未来への糧にするとしよう。