重魔戦、という言葉がある。重さに特化した魔法戦士、という意味である。
もう2年近くも前に魔法戦士の間で流行っていた戦法で、補助呪文やMPパサーによるサポートを行いつつ、前衛に立って戦士やパラディンの補佐も同時に行う合理的な戦闘スタイル……ということになっている。
が、実際のところ、魔法戦士が無理に前に出なくても戦闘は成立していた。そもそも、詠唱時間の長い補助呪文は離脱の妨げになるため、本来、壁役には向いていないのだ。
にも関わらずこの戦法が流行ったのには、魔法戦士に独特の気質が関係していた。
当時の魔法戦士と言えば、攻撃役として役に立つ技がほとんど無く、専ら杖を持って補助役に徹するだけの存在だった。攻撃力においては、恐らく僧侶以下だっただろう。
だが卑しくも魔法"戦士"。杖だけ振って満足というわけにはいかない。
そこで生まれたのが重魔戦。要するに、無理にでも剣と盾を持つ理由が欲しかったというわけだ。武器としてでなく、重石としての剣。これが当時の魔法戦士にとって、精一杯の"抵抗"だった。
この流行はコロシアム開催、およびピラミッドの発見によって終焉を迎えた。
今でこそ事情は違うが、当時、この二つの戦いではギガスラッシュが猛威を振るっていた。無理に重魔戦を演じなくても剣を持つ理由ができたわけだ。
加えて、魔法の鎧以降、魔法戦士の装備できる重鎧が一向に登場しなかったことが重魔戦にとどめを刺した。
今となっては時代の徒花。過去の遺物となったはずの言葉だが……

「まさか、またこれを引っ張り出すことになるとはな」
身体を包むは魔法の鎧。グリーブにかけられた錬金術は重量増加。手には剣と大盾。
応急的にドレスアップだけ整えて格好はつけてみたが、中身はオールドスタイル。重魔戦そのものの姿だ。
常闇の竜レグナード。彼奴に対抗するための装備である。
かの魔竜が出現してからしばらくの間、敵を知るために単独での挑戦を続けていた私だが、そろそろ敵の顔も覚えた頃。他の冒険者との共闘を考える時期に来ている、と思っていた。
そんな折、友人のザラ氏から誘いを受け、本格的に魔竜に挑むこととなった。幸い、その日の魔竜は機嫌が良く、"最弱"と呼ばれる状態だった。
額を集め、構成を相談する。
薄々感づいていたことではあるが……この敵は魔法戦士にとって、非常に厄介な相手である。少なくともしばらくの間、ベストメンバーと呼ばれる構成に魔法戦士が割り込む余地は無さそうに見えた。
だが、あえての魔法戦士……そんな酔狂な挑戦を受け入れてくれる友人たちに心から感謝したい。
何度かの敗北の後、構成を調整し、最終的にはパラディンと魔法使い、僧侶の構成に魔法戦士が混ざる形で戦い、辛くも勝利を得た。
この構成において魔法戦士の主任務はピオリムによるサポートと、稀に入るフォースブレイクによる援護。ルーレットによる魔法力の回復、そしてパラディンと共に敵を押すことである。
ここに過去の遺物だったはずの重魔戦が、くさったしたいの如く復活したというわけだ。
因みに耐ブレス用の魔法の鎧は、重魔戦が斜陽に入りかけた時代にとりあえず購入したまま、特に出番もなく屋根裏にしまわれていた代物である。当時は無駄な買い物をしてしまった、と思っていたのだが……人間万事塞翁が馬。ウェディも然りだ。

こうして、とりあえずの勝利を手にすることができた私だが……。
まだまだ、勝たせてもらったという気持ちは強い。
同時に、もっと戦いたいという気持ちも沸いてきた。
相性の悪い相手であっても、悪いなりに上手く立ち回り、勝利に貢献できる魔法戦士。これは私の目指す理想像と合致している。
まずはパラディンの補佐をする練習。聖騎士たちが実践しているという、押し合いからの時間を数える戦い方を習得できたなら、飛躍的に貢献度は上がるのではないか。
そして自分が狙われているかどうか、判断力の強化。まごまごしている場合ではない。
狙われて下がった時の行動。杖に持ち替えて魔法陣を描くぐらいのことはできる筈だ。魔法使いの援護。
別の構成での戦いも色々と試してみたい。
もちろんこれは、あえて魔法戦士で、という挑戦に付き合ってくれる仲間がいることが前提になる。
あまり負担をかけすぎても良くないので、たまには別の職業で挑むことも考えた方がいいだろう。装備も整えよう。

闇そのものは善でも悪でもない、と竜守の巫女は言う。
常闇の魔竜とどう付き合うべきか。私にとって一つの答えが出たような気がした。
闇であるが故に、試練。
かのエンシェント・ドラゴンとの戦いは、メタルキングを何十匹倒すよりも私の力を伸ばしてくれるだろう。
新しい境地を目指して。
長い付き合いになりそうである。