『明けましておめでとうございます!
今年も魔法戦士団は市民の安全のため、全力を尽くします!』
「……というのはどうだろう、ミラージュ」
「ちょっと新年早々、肩に力が入りすぎなのでは?」
「そうか……難しいな」
肩を落とすのはユナティ副団長。鮮やかな赤の振袖が目にまぶしい。首をひねるたびに頭で揺れるのはノーブルハット。和装に帽子は魔法戦士団の公認スタイルである。
新年を間近に控えたこの日、広報担当である彼女は挨拶向けの写真に苦慮していた。
そんな中、うっかりサロンに顔を出した私は、彼女にとっては格好の獲物だった。結果、こうして撮影に付き合わされることとなる。
遠巻きに見守る同僚たちが肩をすくめるのが見えた。彼らは状況を察して距離を取っていたらしい。気配を読む能力は現場担当より宮廷仕えの方が、より高度に磨かれるというが……全く! 政治的駆け引きばかりに長けた官僚的魔法戦士の増加はヴェリナードの抱える問題の一つである!
「そもそも私はこういうフワッとした場は苦手なのだ」
副団長の口から溜息が漏れる。
「よし、ミラージュ、お前が前に出ろ」
「いや、私もあまり得意では……」
「いいから、ほら早く」
「いやいや、あくまで副団長が主役ですので……」
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もめることしばらく。悩むことしばらく。何故か居合わせたプクリポ七英雄のダンターグ氏も呆れ気味だ。
刻一刻と迫る新年。アストルティアに時は流れ、ヴェリナードに水が流れる。
海へと注ぐ水路には灯りを乗せた手のひらサイズの船が浮かべられ、行く年を乗せて去っていく。灯りの一つ一つが一年の疲れと悩み、そして煩悩を海へと流し、まっさらな気持ちで新年を迎えるというヴェリナードの伝統行事だ。
そんな光景の中、悶々と頭を悩ませ、主役を擦り合う魔法戦士二人。人の業とはかくも深く愚かしいものか。灯り船がいくつあっても足りそうにない。
だが、時は全てを押し流す。凝ったものを作るにはそもそも時間が足りないのだ。
時間に追われ、不要な部分を削ぎ取り、シンプルにまとめた結果、何の捻りも変哲もない、ごく普通の写真が出来上がった。これもまた人の世の常である。
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こうして去る年は去り、サル年は訪れる。
思えば、グランゼドーラのアンルシア姫が"大いなる魔の王"と決着をつけたのが、去年の今ごろだった。それは私にとっても、一つの戦いの決着だった。
あれから一年。
アストルティアには新しい波が押し寄せたとはいえ、未だ物語は動き始めたばかり。
戦いの場だけは増えたが、世界が広がったとは言いがたい。
私がこの日誌を書き始めた当時と、状況が似ているように思う。
今あるものとどう付き合うか。ただ過ごせば平凡に終わる日々を、楽しむための工夫ができるかどうか。
それが大切になりそうである。
そして勿論、そんな冒険を共にしてくれる仲間達も。
大切にしていきたいものである。
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と、いうわけで……
今年も一年、何卒よろしくお願いします!