ナッチョスの一座でリルリラが得たのは数々の技能だけではない。元来人懐っこい性格の彼女は、ここで何人もの新しい友人を得た。
今、彼女の隣で笑っているラスターシャという名の踊り子も、その一人だ。ナッチョスの秘蔵っ子と呼ばれる彼女は、一座でも群を抜いた舞い手である。
新年を祝う舞台ということで、今日はリルリラと共にエルトナ風の振り袖姿だ。
舞台を終えた彼女は、秀でた額を伝う心地よい汗を拭いながらリルリラと笑い合っていた。
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「いやー、大分緊張したけど、なんとかなったって感じだね」
「うんうん、最後はなんか、楽しくなってきちゃった」
「あ、私も~」
ふうむ、と、私は首をかしげた。
弛緩した表情で談笑するラスターシャの姿に、私はどうにも違和感を感じてしまう。
以前、ナッチョスの事務所で会った時の彼女は、非常に気難しく、他者を寄せ付けない雰囲気を纏っていたのだが……。
「……でね、実はちょっと踊り間違っちゃって!」
「でもアドリブで誤魔化した!」
「そうそう!」
足をばたつかせて肩を叩き合うその姿には、あの頃の面影は欠片もない。
「まるで憑き物が落ちたような豹変ぶりだな」
私のつぶやきにラスターシャは振り向いた。
「あ、そうなのよ。なんかここしばらくの記憶がちょっと曖昧でさあ」
と、首をかしげる。
「多分、何者かに改造されて記憶を奪われたんだと思うのよね」
「なんなんだ、それは……」
こんな妙な冗談を言う女性ではなかったのだが……。本当に別人のようだ。
ま、以前は気が立っていたのだろう。舞台役者にはストレスが付き物だ。
と、背後からパチパチ……と、拍手の音。
「よく頑張ってくれたわね、あなた達。おばちゃん、安心したわ」
振り向くと、私の雇い主が立っていた。
妙齢、と呼ぶにはいささか遅い。しかしその表情は芸の世界に身を置く者だけが持つ、独特のツヤを未だ失ってはいない。
私は恭しく一礼した。
「お気に召したようで、何よりです。サルバリータ殿」
「あら、堅苦しいことはいいのよ、魔法戦士さん」
サルバリータ小さく肩をすくめると、悪戯めいた笑みを浮かべて、我々を見渡した。
リルリラを、私を。
そして、ラスターシャを。
「いい舞台だったわ。とってもね」
彼女の瞳に、深く強い光が宿ったように見えたのは、私の気のせいだろうか。
サルバリータはラスタの肩に軽く手を置くと、にっこりと微笑んだ。