話の大筋は、これで終わりだ。
最後に、需要は無いと思うが、私の出番についても触れておこう。
剣士エリシアはルシャンとの戦い、そして再会を通して頑なだった心を解きほぐし、かつての彼女に戻っていく。
そんな彼女が、使用人と言葉を交わすシーンだ。
舞台に登場したプレシアンナを振り向き、私は、おお、と感嘆の声を上げた。
「今日のお嬢様は、いつにもまして美しくあらせられる」
プレシアンナは、何かを受け入れた、すっきりとした表情で振り返った。
いい顔だ。そう思った。
「そうかもね……」
彼女は一言だけ呟き、空を見上げた。……空を。
ただ、それだけのシーンである。
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物語は終わりを迎え、舞台はカーテンコールを残すのみ。
下りた幕が再び開かれると、軽やかな演奏に乗って役者たちが舞台に踊り出る。
端役の私やリルリラは真っ先に飛び出して舞を披露し、一礼。拍手の雨が、波濤のように押し寄せる。
私は客席に薄桃色のシルクハットを探した。彼は、満足げな表情で手を鳴らしていた。
随分危うい綱渡りだったが……この曲芸飛行は、どうやら無事着地することができたらしい。
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演奏が徐々に盛り上がりを見せ、次々と重要な役を演じた俳優たちが入場する。拍手は鳴りやまず、勢いを増すばかり。
私はちらりと舞台袖に目をやった。クリスレイが小さく手を振っていた。
いつか彼女も、ここに戻ってくるだろう。
大サビに合わせて、入場が一旦ストップする。期待感を膨らませ、満を持して登場するのはもちろん主役の二人。
プレシアンナはラスターシャに抱きかかえられての入場だ。一際大きな歓声が上がる。事前に私がバイキルトをかけておいた。怪我に合わせた即興の演出である。
総監督のサルバリータは、本来この後で入場するはずだったが、本人の意思でクリスレイと同じ場所に留まった。
ラスタとプレシアンナは並び立ち、優雅に一礼。スポットライトを浴びた二人が、花開くような笑顔を振りまいた。
いくつもの花が、それぞれの痛みを抱え、それぞれの色で咲き誇る。
その全てをくるりと見渡して、リルリラは楽しげに肩を揺らしていた。
多分、私も笑っていたのだろう。
歌声と熱気の中、万色の光が揺れていた。
観客席は熱狂し、ヒートウェイヴが巻き起こる。
ショウほど素敵な商売は無い。